蛍光グリーンにひかる

ゆれ

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 ついでに警察にも通報して、あとの始末は丸投げする。残っていたら過剰防衛を責められそうで、その前に逃げないと、なんて不良少年みたいなことを考えてひとり笑った。成長したのは身体だけだ。

「ケンカ強いんだな」
「いや~……俺も知らなかったんだけどさ。育ち悪いからかな」

 やっぱ引いた? ギリアウト? 判決を待つ気分で緊張したが、麗一は抱擁を解かないでいる。セーフ、で、いいのだろうか。

 いくら大事な人のためでも暴力に訴えるのはこのご時世向きではない気が今はしている。さっきは本当に衝動が抑えられなくて、ひとりで四人に向かっていったのはさすがに初めてだった。よく死ななかったなあと空護は他人事のように思う。

 ピンチに颯爽と現れてひとりで大立ち回りをやってのける、などというシーンは現実にはそう起こり得ないのだと歓楽街に住んでいる空護や天満は経験として知っていた。幾ら理不尽にからまれても誰も助けてはくれないし、金銭を巻き上げられごみ捨て場にうち捨てられた酔っ払いはちょくちょく見た。通報してさえ、ああいう手合いを見かけたら今度からは近寄らないようにと諭される。

 今回はたまたま運が良かっただけなのだ。神様仏様ありがとうと感謝する空護に、麗一が「好きだ」と呟いた。

 そういう空気じゃないように思えたが、一緒に危機を乗り越えると盛り上がるというあの現象だろうか。タイミングに驚きはしても、迷惑ではないのでうすく笑んでみせる。

「うん」
「……嬉しい」

 別に初めてではない。何度となく貰ってきた告白なのに、素っ気ない受け答えも変わらないのにどういうわけか今夜の彼は、言葉のとおり、やけに嬉しそうだった。

 とにかく麗一が幸せならそれでいい。心の底からそう思って、空護は長い長い息を吐いた。








 幾ら山の中で隣近所が遠く、人目を気にしなくていいとはいっても、一面ガラス張りの壁いっぱいに陽射しを取り込む真昼のリビングで耽るのはなかなかに罪悪感がある。

「……ぁっ」

 スクリーンでは先程までちゃんと観ていたアクション映画が流れっ放しになっている。最早BGMだ。向かい合う位置に据えられた心地のよいソファにだらしなく座って空護は仰のき、小刻みに肩をふるわせた。

 脚の間で激しくうごめく麗一の頭に指をのばす。さらりと流れる黒檀の髪を梳く。男の大きなくちでしゃぶられると初めは怖かったのだが、今では余裕で何回でも達してしまうのだから情けなかった。

 ついさっきやっとで寝室から起き出してきたのに。シャワーをくぐり、服を着て、ようやく人間らしさを取り戻し安堵したと思ったら、落ち着かない様子で麗一にすり寄られ、察してしまった。

 あんなに弱るまで放置していた後ろめたさからか、欲求に気づくと見過ごせなかった。舐めて、と言ったときの嬉しそうな表情に正解を確信して喜んでいたのも束の間、だ。

「なんか……っうまく、なってる……? あっ、も、そこダメ」
「んん」
「……ちょ、ダメだって、いっ、」

 ひときわ激しく腰が揺れてあたたかな咥内に勢いよく射ち出してしまう。後悔する暇も与えず下品な音をさせて啜られると耳からも煽られ、じわりと肌のほてりが広がっていく。

「見せろよ」

 劣情で声がかすれる。麗一は注意深くくちを開け、なかに溜め込んだものを空護に教える。そのまま、顎先をやさしく指で押し上げてやると頬を紅潮させ、抗わずに飲み込んだ。喉仏が上下するのを凝視する。

 殆どソファから落ちそうに背を丸めた空護のうしろを麗一の指が慎重に掻き分けてくる。先程まで使っていた所為でやわらかく、熱を帯びて敏感な粘膜を労るように撫でられて、あまったるい悲鳴が散らかった。

「も、と……ゆっくり、ぃ」

 窄まりをいじられると腰が浮いて前を押しつける格好になる。かと言って引けば自分から指を咥え込んでしまう。逃れようがない。自分ばっかりが昂っていくのも、プレイはふたりでするものなのに、不公平な気がして居た堪れなかった。

 でも麗一も間違いなく悦んでいる。よがり狂う空護を眺める以外にも、直接伝えはしない秘かな愉しみがこの時間に存在する。強いDom性と快楽にもみくちゃにされ、呼吸すら煩わしげに身悶える空護の腹に隠した弱点を、的確に指で押し上げる。舌でねぶっている性器があからさまに反応する。

 とうに指では物足りないとわかっていながら執拗に指でばかり粘膜をあやされても苦しいだけだ。ここからどうすれば解放されるか、奉仕したくてたまらなかった麗一にくちと指だけで一晩中尽くされ続けた数日前に学んでいる。果てのある快感のほうがまだましだ、と思わせたかったわけでもないけれど、そのほうがこの不器用なDomには都合がよかった。

「れ、……ち」
「……ン」
「なぁ、もう、それ、いらない」

 言葉に従って動きを止める。ぬるりと吐いた若い茎は天を向き、いじられ続けて膨らんでいる窄まりは咥えるもの欲しさに震えている。熱い息を弾ませ、目をつぶって、抗う己のさがと空護は折り合いをつけだす。葛藤する様が美しかった。悩ましげに揺れ惑う姿がいとおしい。勿論、最終的には麗一を欲するところまで含めて。
 
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