蛍光グリーンにひかる

ゆれ

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 やわらかく弾力に満ちた果実のような先端を吸い上げられると、腰にわだかまっていた寒気にも似た劣情ごともっていかれそうで、空護は思わず奥歯をきつく噛みしめた。

 経験は多いほうではない。しかしこちらがDomである以上、存在する場合の相手はSubであることが圧倒的で、彼ら彼女らが『奉仕したい』性を有するからにはこの行為が手っ取り早いのはやはり否めない。ゆえに、麗一があまりじょうずでないことは、申し訳ないがわかっていた。

 一度でも体験すればどうしたって比較してしまう。無意識下でもやってしまうのがたちが悪い。それは俺はちょっと痛い、あのときはあんなところまで舐められて正直ひいた、あれよりはまし、女の子より男のほうが的確ではある、などなど。元より気の進まない時間なので脳内はそれはもうとっ散らかっていたのだ。

 しかし、それが、どうだ。

「……くぅっ」

 堪えきれず、不本意に喉の奥から漏れ出たような空護の嬌声に、懸命に尽くしていた麗一はほとんど恍惚然として目を細めた。浅ましくも勃ちあがり、小刻みに震えている自分の性器越しに見るにはとても相応しくない景色。写真におさまってファッション雑誌などの表紙を飾っているほうが自然な容貌だ。

 もはや嫉妬すら覚えずただただ羨むばかりの造作がおもむろに大口をあけ、外に突き出した舌を空護の幹に絡みつける。でこぼこした表面をこすり取るような動きは覿面に効いた。力加減は相変わらず馬鹿なのに何故かやばくて、眠気というブーストもあってか空護は大して粘らず白旗を掲げる。

「きれいな顔して、……んな、こと、すんなよ、なあ、」
「ん? ……らに」
「れーいち! も、放せ……って!」
「ッ……」

 逼迫するあまり強まった語調に麗一の肩が鋭く跳ね上がる。眸の中にハートが飛んでいる。荒く息を吐き、手の甲で口元のべたつきを拭い去る様は同性ながらに強烈な色気を感じて、空護の喉仏がゆっくりと動く。渇いている。衝動のままに手招きをすると、まるでその指先から伸びる糸にでも操られているかの如く従順に、広いシーツの海を麗一がベッドヘッドへ向かっていざり寄ってきた。

「キスしろ」

 いいのか?とでもいうように、気障ったらしくひとつ眉を持ち上げてから、麗一のいやらしく薄い唇が落ちてくる。ひらくと同時に押し入ってきた舌が空護のそれを追いかけてはすり寄り、かと思えば離れて、無遠慮に咥内を舐めまわす。上顎の天井が空護はいちばん感じた。識っていて執拗に責められて、首にまわしていた手でそっと襟足をひっぱる。

 すぐにやめてはくれたがくちを合わせたまま麗一が笑ったのがわかって面白くなかった。齢が八つも離れていると、あらゆる場面で差がつくようなのはもう諦めるしかないのだ。そもそも社会的な地位からして、見過ごせない開きが存在する。

 でもこうしておなじベッドに身を横たえている間だけは、自分達は対等なDomとSubなのだと空護は思っている。誰もが憧憬を寄せるような彼に所有権を委ねてもらっていることに、この上ない悦びを感じて震える。のだが、どうにも生来の性格が黙っていてくれず、なかなか次のコマンドをくちに出来ない。

 この先ふたりが期待する行為はひとつだけだ。わかっている。空護だって切に望んでいる。しかし、恥ずかしい。ぐううと唸る年下の所有者を、麗一は面白そうに、けれど優しく見守っていた。ほんとうは意地悪でもあるのかもしれない。現に空護のはだけた胸元に、指で意味深な落書きを描いている。

 人を支配し信頼されることに悦びを見いだすDomのくせに、誰かに命令することがめっぽう苦手。後者は恐らく生い立ちに拠るので、ダイナミクスが発露したときは深く絶望したものだった。なんで俺がDomなんだと憤ると同時に、あらゆる出来事に納得がいった。

「うう……」

 ちいさく呻いてかすかに身じろぐ。自分の奥深いところから粘着質な水音が聞こえるようで、自分でしておいて激しく動揺する。これまでのあれそれは、たぶんうちのキャストもやってるんだろうなあで誤魔化すこともできるのだが、さすがにここからは、禁止行為なので想像も及ばない。

 ダイナミクスを満たすためのプレイに必須ではないし、空護と麗一の間でもさわるだけで終わる場合はあるのだけれど、今日はすこし久し振りの逢瀬で、特に麗一が求めていた。否うそだ、空護だって、意に反して強すぎるダイナミクスを持て余している。このままでは終われない。

 仕事あがりの疲れてねむたい身体は溺れやすく、溢れる寸前で何回もなんかいも堰き止められた欲望は暴発寸前だった。みっともなく赤らんだ顔をおそるおそる上げて、囁くほどの声で、吐息にかくまってもらいながら、いれろ、と告げる。

「! ……空護」

 とどめに頷いてみせる。言った。たしかに、俺は今、そう言った。
 麗一はかるく目を見開くと、とろけるようにほほ笑んで「喜んで」と恭しく答えた。

「あっ……ん、んんッ……んゃぁ、」
 
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