セカンドクライ

ゆれ

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 一度果てを味わった内壁が、ふたたび硬度を帯びて律動する熱芯に媚びるように絡みついている。七緒の肩越しに天井を仰ぐ体位から一旦離れてひっくり返され、四つに這って、突き上げを受け止めて姿勢を保つ膝に力が入らない。腕はとっくに音を上げている。荒く息を吐き、悩ましく上ずる声を懸命に押さえつつ高く腰だけを掲げる杏里を、好色な視線がねっとりと嬲っていた。
 時間をかけて一回目を終えた影響が覿面に出ている。中からいかされて尾を引く絶頂はいつまでも全身の感覚を曖昧にしたし、ごりごり理性を削り取った。恥ずかしいがきもちいに裏返っていく。もはや七緒に見つめられるだけで、杏里の若い茎は頭を擡げてせつなげに震える。穿たれるたびぶるぶる揺れている。

「んっ、あっ、……ぁ、はっ、んんっ」

 腹の中に隠していた弱点を的確に責められて腰がびくびく跳ねた。小刻みにそこばかりを執拗に抉られたと思うと、今度は抜けそうになるほど穂先のぎりぎりまでと根元近くまでをゆっくり、殊更ゆうっくり往復されて七緒のかたちに柔軟に応じる道を、その締め付けを堪能されているようで居た堪れなかった。

「も、……ぁだ、それ」
「奥がいい?」
「……ん」

 ついて、と言ったか言わないかのうちにぐぐっといっぱいまで入られて杏里は押し上げられるように吐精していた。ぬるついた性器の先端から勢いなく体液がこぼれる。七緒が腰を引いて、突き込んだ瞬間にまたちいさく噴く。ずっときもちいから降りられない。終に四つ這いも維持できなくなり、マットレスにべしゃっと潰れてしまった。
 弾みでずるりと抜けかけ七緒が慌てたような声を出したのも聞こえてなかった。まだ敏感な銃口がシーツに擦れて、不意打ちの鋭い快楽にうあ、と悲鳴がころがる。しかし腰を逃がせば今度はうしろに含んだ七緒を自分から深く呑み込んでしまい、どうしていいかわからないまま高められて目がまわりそうだった。

「七緒、ァッ、……ん、……んっ、あっ」
「すごい腰うごいてるな」
「……じわる、すんな、よっ」
「杏里かわいいからなあ」

 そんなことを自動販売機より大きな男に言うのなんて七緒くらいだ。互いに殆どおなじサイズというのもあって、持ち上げたり裏返したり、脚をかかえたりを難なくこなされてしまうので、杏里は不覚にも少女漫画みたいなときめきを感じずにいられない。大体1センチとはいえ自分より目線の高い人に出くわすことがもうレアイベントな人生だった。
 加えて長子の宿命とでも言うべきか家ではほぼ名前で呼ばれない。語弊は多分にあるだろうがあくまで体感で、あまり大事にされない。でかくて頑丈を武器に人を庇ったり護ったりすることはあってもその逆はほぼなかった。それがこのざま。慈しむように頭を撫でられ、包み込むように抱きしめられて、杏里は言葉にできない感動を覚えた挙句まんまと溺れてしまったのだ。

 幸か不幸か誰かに乞われることの多かった身で、女の子は勿論男だって抱くほうが圧倒的に多かった。だが七緒と寝てからは、彼を知った今はもうタチには戻れないのではないかと思うほど、抱かれてきもちよかった。

「っあ、おく、……は、ついてぇ、ぁ、なお、ッ」
「……っ、は、きつ」
「も、……っきた、い、おれ、ッは、あっあっ」
「そろそろ俺も、」
「ふ、んっ、……なお、あっ、あっ、ンン、そこっ……♡」

 たっぷりとまとわせてくれたローションと体液の混ざるひどい音に耳からも責められ、熱く潤んだ粘膜をめいっぱいこすり上げられて快感の頂点で杏里は自分の腹を濡らしながらのぼり詰めた。その反動で、圧し掛かって責めていた七緒も食い締められ狭くなった胎内の一番深くへ1ミリより薄い被膜越しにどくんと射ち出す。瞬間、掠れた声が名前を呼んだように聞こえた気がした。

「……ん、……ぁ、んっ、……ふ」

 呼吸を整える暇もなくキスの嵐に巻かれて苦しさに涙がにじむ。気が付いてようやく七緒がちゃんと息を吸わせてくれた。尖らせた舌先で口角をあやされると唇がゆるむ。純情に重ねるだけじゃなく、舌も交えていると今度は脚が開いてきて、あわいに彼を招き入れてしまうのだから仕様が無かった。
 汚れようが頓着せずまた対面して七緒に組み敷かれ、痕が残らない強さで肌を吸われる。いたずらのように乳首をこねられてあっと感じ入った声が洩れた。出したあととなってはただただ気恥ずかしい。赤面する杏里に、年上の男はまた「かわいい」と囁いた。

 しばらくそうして睦み合ったのち、手早く避妊具を片付けて七緒が先にシャワーを浴びにいく。とてもすぐには動けない杏里は後ろ姿を見送ると枕に頭を埋めて疲れたように目を閉じた。もうちょっと理性を残してこなせないものかと毎度思う。あれではけものだ。ポジション的に経験が浅いので何ともいえないが恐らく七緒はうまいのだろう。果たして自分はこんなふうに相手をベッドに沈められていただろうか。なんだか、タチとしては負けたようで悔しい。

(いつも完璧)
 
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