最終的には球体になる

ゆれ

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「ゆび入れるぞ」

 言葉にされることで余計感じてしまうのだ。わかっていて耳元で、息がかかるように告げてくる。長い指の根元まですんなりのみ込んでしまって、入谷に「そっちこそ彼氏いんじゃねーの」と疑われた。反論したくとも掻いたり突いたりの動きは止まらないので、短い息と喘ぎ声しか出せない。

 敏感な突起の裏側、ざらついた部分をすりすりとこすられて腰がおかしいほどビクビクくねった。かるく達って後ろに倒れそうになるとしなやかな腕がつよい力で抱きとめてくれるのだ。幸せで目が眩む。
 余韻が尾を引くなか差し込まれた指が拡げる動きになり、空気を感じていよいよ期待に胸がふくらむ。入口を丹念に何度も何度も撫でさすって開いて、あふれるくらい濡らして、もう自分では姿勢を保っていられない唯織を入谷がゆっくりとソファに横たえる。ひやりとした革の温度が気持ちよかった。

 一旦部屋を出た入谷の手に正方形のパッケージを見つけて、状況などまるで無視して彼女の存在が唯織の中で強く鮮明になる。しかし本懐を遂げ果せるという甘美な誘いにはどうしても勝てずに、痛い事実には無理やり目をつぶった。
 ややもせずストッキングと下着を取り払われ、膝を持ち上げられて、脚の付け根に熱いものが宛がわれる。くちゅ、くちゅ、とそれは唯織の襞にキスをして、潤った胎内へとじわじわ割り入ってきた。

「は、あっ……おっき、よぅ……」
「よかったな」

 顔を見なくてもそうとわかるほど笑っている。入谷は慎重に丁寧に、唯織を痛めつけないように、ゆっくりゆっくり挿入する。かれの性格もあるのだろうけど実際すこしブランクのある唯織のなかが、締め付けをきつくしているのだろう。愛しい男だろうと器官にとっては異物に他ならない。

 半ばを過ぎれば残りはグッと強く突き込まれた。奥深くあたって、本当におおきいのに唯織はすこしびっくりした。すこし腰を捩じ込まれれば行き止まりをさらに押し上げるのかうすく痛む。すぐには動かず、馴染ませる間も入谷の手は忙しく、唯織の肌をまさぐっている。

 ほんとうに苦手なのか胸は避けて、肩や首筋、鎖骨のくぼみ、臍、腰と脚の境目、そして背中が最も感じることを然程遠回りせず知ると、そこばかりを重点的に責めてきた。もしかしてこういうとき意地悪なのかも。つくづく魅力がとどまるところを知らない人だ。

「アッ、も、やだ……んっ、んっ、ああ、んっ、うー……」

 下着のホックも難なく片手で外すと上から下までなぞり尽くし、あわく爪を立てて、極まった唯織がなかを締めるのを愉しんでいる。泣き声のような喘ぎを吐くくちに羽のようなキスを繰り返し、耳朶を噛んで入谷が、ひときわ強くズンッと突き込んできた瞬間、唯織は達った。

 電流の駆け抜けたような。身体を、びりびりとまだ苛み続ける長い絶頂なんて知らなかった。しかも入谷は未だ硬度を保ったまま、極めないままじっと唯織をみつめていた。

「あぁ……いっちゃった」
「高頭さん、イキ顔かわいいな」
「えっち」
「そりゃ、えっちしてっから」

 七つも年上の男がえっちなんて、しかもあの『経理の入谷さん』がそんな言葉を使うなんて誰が信じるというのだろう。妄想だと一笑に付されるのがオチだ。自分だけが知っている。それでいい。耳と胸にしまい込んだ。
 別れの悲しみがひたひたと忍び寄るのを唯織は感じていた。深くつながればつながるほど、その隙間をどうしようもなく意識して寂しくなる。もうきっと他の何でも埋めることはできやしない。

 入谷しか、永遠に。

「すきです」
 うっすら汗をにじませて律動を叩きつけてくる入谷に、唯織はちいさな声で言い続ける。

「すき、あ、たし、いりやさんが、すき、すき、」
「……わかったよ」
「ほんとに、いちばん、すき……」

 だから別れ際はさよならと言わない。代わりに、ありがとうと言って手を振る。そうする。





     ゜+*。.*。‥+゜





 手入れの行き届いた、立派すぎる庭を眺めて唯織は思い出したように肩をトントンと叩く。肩凝りとは思春期からのつき合いだが、今日はさらに輪をかけて、振袖の重さが遠慮なく圧し掛かっている。
 七五三、という単語がフッと脳裏を過って消えた。落ち込んでなんかない。絶対に。

 姉の栞奈はカメラまで持ち出して可愛い可愛いと褒めちぎってくれたけれど、この夏でもう25になるんですけど、まるでちいさな子どもに言うような口調で言われて、微妙になるうえうすくムカつくだけだけれど愛しの姉なら話は別すぎる。素直に嬉しかった。

 7月中旬が予定日で、もうわりと目立つ腹を手で支えながら、にこにことほほ笑む栞奈のほうが年齢不詳の可愛さだった。そして相変わらずの巨乳。妊婦なのも手伝って、今はもうワンサイズ盛られて張りだしていた。唯織もかるく帯に胸がのっかっているが栞奈と並ぶと普通に見える。

 そんな身体で付き添うのは心配だからと、今日ついてきてくれたのは義兄だった。両親は既になく、親類もいない。縁の薄い人たちだった。その分、姉妹は愛情たっぷりに育てられたので却って幸福だったと言える。義兄も情の深い人で、ときには家族ぐるみで何かと栞奈を助けてくれているようだった。有り難いことだ。
 
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