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虎次と慶
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しおりを挟む荒い呼吸で返事をするとさらに強く短く虎次を責める。ゴールを見据えた動きに期待が高まる。連動して狭くなる中にめいっぱい深く捩じ入れると、慶がぶるぶると胴を震わせてどくんと射ち出した。
「……ふあぁ……おく、かかってる♡」
「ん……っ」
「あ、すげぇいっぱい……♡」
脱力して圧し掛かってきた身体の重みに唸りながらも、絶頂の余韻に浸る。虎次もいつの間にか自らの胸まで白く飛ばしていたがまるで気づかなかった。腹の底が熱く脈打っている。まだ腰で繋がったまま、ふたりは荒っぽくくちづけを交わし、さらに呼吸を乱し合った。
あんなに長く吐きつけていたとは思えないほど慶はもう硬度を取り戻している。内側から押し開かれてそれを感じつつ、ニヤニヤする虎次に「なんだよ」と拗ねて、慶が鼻先を耳の下から首筋へ埋めてきた。脱色した髪をやわく掻き上げ、火照るうなじから肩にかけて、なだらかな稜線にキスを落としていく。押しあてるだけのごく軽いものだ。
「虎次……いい匂いするわ」
「そう? いつもとおなじシャンプーだけど」
風呂に入ったのもする前なので、大概汗でうすまっていそうなものだが、最近よくそう言うなとふと気が付く。アイドルなどという仕事をしているけれど、虎次は元来そんなに身だしなみに興味のあるたちではない。清潔を保つ程度の必要最小限しかたしなまない。肌があまり強くないので過度の入浴はしないほうがいいとヘアメークさんに言われているし、何なら体液も放置するとかぶれるため顔では絶対に受け止められなかった。
大きな図体で甘えついてくる慶にかまわず、こぼしたものを拭き取っている間もずっと鼻をふんふんさせていた。それに、抜くつもりはまだないらしい。下半身を深く交わらせたまま、虎次は慶の広い背中に腕をまわしてすべすべと撫でまわす。
そもそもふたりがこの煌びやかな道につながる門を叩く羽目になったのは、ももが勝手に事務所に履歴書を送ったからだ。あとになって思うが兄も一枚噛んでいたのだろう。可愛い可愛い妹にお願いされれば、なんでもふたつ返事で聞いてしまう。その気持ちは虎次にもわかりすぎるほどわかる。
母ひとり子ひとりで、水商売で働く姿を間近で見ていた慶は一刻も早く社会に出て母親のために自分も働きたかったらしく、採用通知に喜んで入所を決めていた。虎次はどちらでもよかったが、家でゴロゴロするくらいなら何かしなさいと習い事感覚で最終的に両親に放り込まれた。
それが小学生のときで、その後中学でも、高校でも、事務所の寮で暮らす間、何なら虎次より頻繁に慶はももとメッセージのやり取りをしていた。九女家も長船家も地元は近かったのだが芸能界という特殊な環境に身を置くため、警備等の都合で他のメンバー共々親元からは離されていたのだ。たまに帰ると慶も九女家に必ず寄ってももと顔を合わせていた。
(もも)
愛しい妹はもうこの世にいない。そして大好きな兄も。自動車事故だった。それが二十歳のとき。虎次は塞ぎ込み、一切の仕事ができなくなって、理由は伏せてひと月ほど休養した。
虎次だけじゃない。慶も、命の果敢無さと遣る瀬無さに苦しんでいた。泣いて、嘆いて、うつろになった心を埋めるように、まだ息をしている大切の存在を確かめるように、互いに触れ合うようになった。
正しさを問えるような状態ではなかった。それは間違いないが、今となっては他の方法を採るべきだったと虎次は後悔している。しかしふたりの死をめぐって両親は仲違いし、祖父と揉めて、家まで出て行ってしまった。立て続けに家族をうしなった悲しみをどう癒していいか虎次はわからず、混乱していたのだ。
申し訳ない気持ちと、寂しさを忘れさせてくれる心地よさ。いつも板挟みになっている。いつか慶に新しく想う相手ができたら、自分から解放してあげる。ちゃんとそう決めているから大丈夫。じっと眸を見つめると、ねだったと思われてか慶がキスを落としてくれる。
ひとつ、ふたつと純情に重なってじきに唇を割る不埒なものへと発展していく。くちのなかを舐めまわし、唾液を交わして舌をすり合わせる。かすかな水音と、合間に聞こえるとろけた声に聴覚からも昂奮をあおられる。後頭部がじんと痺れて熱を帯びていく。貪り合ったまま、ゆさ、と腰を揺すられておさまりかけていた官能がふたたび表面に現れてくる。
たぶんもう虎次の身体のことは、虎次自身より慶のほうが詳しくなってしまっているのだ。慶ができると考えているのなら、できるのだろう。ゆっくりと手足の力を脱いていく。完全に身を委ねて翻弄されたかったり、主導権をめぐって挑み合いたかったり、その日の気分によるけれど、今夜は前者だった。
既に出したもののぬめりを借りて性器がなめらかに律動を始める。卑猥な音が寝室に散らかる。じわじわと昂っていく性感に素直にちいさく喘ぐと、虎次は目の前の慶に没頭することにした。
どうしてできないと前以てわかっていることを、何回もやれと言われるのか。どこがどう面白いのか虎次に教えてほしかった。
「いや~やばいよねー相変わらず。トラちゃん痩せてんのって、ポイズンなクッキングだから?」
「材料が勿体ないし、家で料理はしません」
「だろうな!」
「てか何がそんなムズいのか意味わかんねえ」
自分は料理をするので獅勇には本気で理解が及ばないらしい。ゲストで招いている料理上手キッズの楓馬くんも、あんまりな惨状に絶句してしまっている。そのリアクションは撮り高として100点だ。舐めるように2カメラが捉えている。
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