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月翔と小雨
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しおりを挟む「俺のとこ来なよ。てかあの家買い戻せない?」
「それは無理かな……いいんだ、どうせ税金ももう払えなかったし両親の記憶ならここにある」
と言って指だけで胸を差す。小雨は強がりじゃなくさっぱりして見えた。だから余計に不安が大きくなる。天涯孤独で、人間関係も希薄で、求めればふらりとどこへでも行ける身なのだ。いつ変な気を起こしても不思議ではない。誰も困らないと思っている。
月翔は立ち上がると向かいの席から小雨の隣に来て、床に膝をついた。
「入院っていつまで?」
「いや、ほんとにそんなことさせられない」
「転院できないか訊いてこようか」
「ダメだって、お前は関わらないほうがいい」
「うちに来てよ。俺に飯つくって? 俺も小雨が好きなんだよ、他の奴なんて考えられない」
戻ってきて。お願い、と上目づかいに見あげる月翔に小雨はううっと呻いて顔をそむける。勿論弱いと識っていて訴えているのだ。
小雨にだけ都合の好い同居じゃない。こちらにはもっと好きになってずっと傍にいてほしい下心がある。ベータなら、つがいになろうとは誘えなくなってしまったけれど。月翔の望みは変わらない。
「結婚はできないかもしれないけど、それでもいいなら、俺と一緒に生きてください」
「……っ」
何か言おうとして、失敗してかぶりを振る。わらっているのに今にも泣いてしまいそうに震える小雨を抱きしめたくてうずうずするが、どこにさわっていいかわからず、膝にそっと手を置いて撫でさすった。
「つがいにはなれないよ」
「かまわない。だって俺はヒートでもないあんたと寝てたんだ。オメガかどうかなんて、最初から関係なかったんじゃない?」
「……たしかに」
包帯の端から覗く指がぎこちなく月翔の手にからむ。いつも冷たかったのに、微熱であたたかくて、小雨じゃないみたいだなんて思う。早くまたあの完璧な笑顔が見たい。傷がきれいに治るよう、いい病院をさがしてもらおうと心に決め、そろそろ時間なので月翔は名残惜しいが立ち上がった。
あとで看護師にいつ退院できるか尋ねよう。見舞い品を贈ってもいいかも確認しておかなければ、この頃では花は持ち込み禁止の病院も多いらしい。ちょうどつい最近メンバーの身内が入院したとかで調べたところだった。
ようやく小雨と縁を繋ぎ直せた実感がわいたのはいいが、どうしても知っておきたいことがある。今確かめなければ夜も眠れなくなりそうで、月翔は思い切って彼に問う。
「ねえ小雨、あのさ……連中には殴られただけ? やられてない?」
「…………俺にそんな気起こすの月翔だけだと思う」
「それは絶対に無い」
小声で名前を囁かれ、顔を寄せると頬と唇の殆ど境目のきわどい部分にそっとくちを押しあてられた。予想外の出来事に弱いのは自覚がある。それに相手は好きなひとだ。林檎みたいだとからかわれたけれど、日焼けの所為と今日だけは言い張って月翔からもおなじところにキスを捧げた。
* * *
まだ全快ではない痩せた身体にこんな惨い仕打ちをして、俺は地獄に落ちるかもしれない。衝動のままに腰を打ちつける時間がやっと過ぎ去り、冷静さを取り戻した頭で考え、冴えた眼で見おろすと惨状と呼んで差し支えない光景が広がっている。
無造作に指を突っ込んでおざなりに慣らしただけの窄まりはあかく腫れあがり、必要以上の質量に何度も往復されて少量の血がにじんでいる。ぽってりと熟れた粘膜の心地よさは離れがたかったがこれ以上居座るほど身勝手でも無神経でもないので、月翔は注意深くゆるい前後動を繰り返してからゆっくりと熱芯を引き抜いた。
「……ふ、うっ」
「うわ……」
つられて中からどろどろと流れ出てくる夥しい量の白濁に血液は覆われて見えなくなった。傷に沁みる筈なのだけれど、未だ怯えたような顔で口元に手をやり、放心状態の小雨はあまり感じてないらしい。頬を撫でようとした月翔の手を一旦はぱちんと叩き落としたが、我に返って二回目はすり寄ってくれた。
ダイニングの床で長々と組み敷かれて、平均的に肉のついてない小雨にはさぞかし苦しかったろう。月翔は着ていたTシャツをおもむろに脱ぐと、ついでとばかりに長い指を差し入れて小雨のなかに一滴残らず出した体液を掻き集めた。
「あっ……や、ちょ、待って今、」
「早くしないと腹痛になる」
「自分でできる、っ」
「できないよ。それより包帯、気を付けて」
様子のおかしいしみのひとつでも付着しようものならとんでもない恥をかく。買ったんだったか貰ったんだったかも思い出せないハイブランドの服を見るも無残に汚し、仕上げにかるく脚のあわいを拭いてあげてから、躊躇なく丸めて生ごみのくずかごに放り込んだ。すぐにハンドソープで手も洗える。キッチンが近いのもちょっと便利だと思ったことは小雨には内緒だ。
結局再会してひと月ほど入院生活を送ったのち、年上の恋人は独立資金を貯めるまでの約束で月翔のマンションに身を寄せてくれた。ここはまだ議論の余地があると考える。それはともかく左腕のギプス以外は見た目にはもう健康体だが、まだ安静にしてくださいねと言われていたのに。
「ごめんちょっと切れたかも」
「うん……」
「あとで薬買ってくる」
「いや、いいよ」
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