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千鶴と獅勇
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しおりを挟む「く、うぅ、あ、……っや、アア、あ、いく……ッ!!」
何度目かのノックに終に先端が器官へ食い込んで、びくびくと砲身を震わせながらアルファの遺伝子をぶちまける。初めてまともに味わう感触に千鶴は絶頂し、もっともっとと促すみたいに締め上げられて獅勇も感じ入った声を洩らした。不規則に痙攣し、敏感になっているところをずるずると舐られて鳥肌が立つ。獅勇が自分でもひくほど出て放心する一方で、千鶴も感じたことがない腹の熱さに恍惚境へ押し上げられていた。
事務所でも一番の古株だけあって、あとから入ってきて先にデビューする同僚を何人も見送ってきた千鶴は11歳で獅勇が事務所入りした時も、あたりまえのように世話役を仰せつかった。グループのメンバーは全員そうだ。みんな千鶴が最初の話し相手だった。
しかもスカウトされ親が入所を決めただけあって獅勇自身には最初から溶け込もうというつもりがなく、右も左もわからず、ただただ家に帰りたいと泣くばかりの少年を慰めて励まし、根気強く見守って、晴れて一緒にデビューの日を迎えたあの時の感動は今も忘れない。千鶴が人知れず落ち込んだ際も何度勇気づけてくれたことか、恐らく人生最高の瞬間のひとつだったに違いない。
だから獅勇が15で第二性に目覚め、押し切られて関係を持ってしまった時は死ぬほど後悔したし事務所に話して辞めさせてもらおうとまで思い詰めた。グループ活動は二年目に突入し、やっと世間に広く認知されてきたところだったのだ。大事な時期だと誰に言われずとも千鶴だってわかっていた。
今思えば不可解なことがある。それが活動の条件だったため千鶴はヒートを完璧にコントロールしていた筈なのに、獅勇には一発でオメガと見破られた。親しく面倒をみるうちにうっかり暴露していたのかとも思ったが、どうもそれらしき心当たりがない。運命のつがいなどという都市伝説は鼻で笑う時代なのだけれど、そうとしか説明がつかないような気もしていた。
「すきだ」
大人の男になってしまった獅勇が、汗をにじませ赤らんだ顔でぽつんと言う。うんと頷いてキスを捧げる。千鶴から積極的に舌を突き入れると、ぽってりと熱い粘膜の感触にまた劣情を誘われてなかがきゅんと疼いた。挿れている獅勇にもばれて軽く突かれる。まだ硬い。
「千鶴のえっち」
「……まあ」
淫らなことが大好きなオメガ性。きっとそれに匿ってもらっているだけだ。本当は千鶴が、獅勇と、こうしたかった。もう俺から離れられねえなと嬉しそうに彼が言う。それはこっちの台詞だった。もう誰を悲しませても離れない。ずっと一緒。
* * * *
この頃どうりで洗濯物が減ったと思ったら。獅勇の寝室のドアを開け、そこにこんもりと山になるほど積み上げられた衣服の数々を見て千鶴は壁に寄り掛かり、しばし幸せな風景に目を細めた。
話には聞くが肉眼で見るのは初めてで、ポケットから抜いたスマートフォンでつい撮影してしまう。最後に掃除機をかけたのが一昨日で、昨日は雨だからとさぼってしまって、となると作成期間はだいたい二日。床から30センチくらいは高さがある。これで完成なのか途中なのかはわからなかった。勝手に見てしまったことも、大丈夫なのかどうか知らない。
今は真冬だからいいが汗ばむ季節はこれは大変だろう。洗濯済みの服でもOKなのだろうか。でも匂いが重要なら着ていたものをそのまま使う筈。きれいに円く整えられた、獅勇の力作に歩み寄ると千鶴は我慢できずに膝を折り、もふっと顔をうずめて深呼吸する。
(すっげえ落ち着く)
ここにいないのにいるように匂いがある。ヒートまえぴったりのタイミングでつくられていることにも感心する。一緒に暮らしても諸々の事情で寝室を分けようと千鶴から提案し、なんとか獅勇にも納得してもらったのだけれど、結局どちらかのベッドで同衾しているのだから意味はないかと思っていた。
間違いない。これは巣だ。獅勇が千鶴のために用意した、ふたりだけの場所。つがいのあるアルファやオメガに見られる行動だと教わるのでたぶん離れていた間もずっと、彼はひとりで三ヶ月おきにこれを作成してはからっぽのまま虚しく古びてゆくのを、じっと見つめ続けたのだろう。どれほど悲しかったろう。想像して泣きそうになる。
「……ごめんな」
千鶴にとっては今さらでも、獅勇にしてみればようやくだった。ようやく事務所を説き伏せてパートナーを得る許可を貰ったのだ。
三ヶ月前の再会時のヒートでは奇跡的に妊娠しなかった。直後に獅勇の強い勧めで医者にかかり、結局まだ千鶴の身体が不調だったと判明して、さらに回数を経ながら元に戻っていくだろうとのことだった。従ってふたりが親になるのはもうすこし先だが“一般男性”とつがい婚したとは既に公表している。ひどいロスが全国的に散見され、担降りなどの言葉も飛び交ったようだけれど、本人は一切気にしてなかった。
本日も帯番組の収録と新曲の歌録りで朝から忙しく出掛けていった。千鶴は後任が見つかり引き継ぎまでしっかり済ませてから営業社員を円満退職し、都心へ舞い戻って、獅勇のマンションで暮らしている。しかし時間を持て余して仕方ないので頼み込んでひとつだけアルバイトを許してもらい、週四日はファストフード店の深夜勤務だ。子どもができたら辞める約束のため、純粋にやってみたかった仕事を選んだ。治安のいい地区なのでそこそこ暇でわりと楽しい。
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