愛してしまうと思うんだ

ゆれ

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一生一緒にいてあげよう

06

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 痩せ型でも腕力は人並みだと思っている龍も、しなやかな筋肉の長躯に重みをかけられると身じろぎできない。そうしてベッドに沈められたまま揺さぶられると逃れるのは困難で、最奥を狙ってくる突き込みと、強烈な快楽をひたすらまともに受け止め続けるしかなかった。舌を噛みそうで声も出せず歯を食いしばる。掴むというより最早握っている腰に八色の指が沈んで痛みを生んでいた。

 パン、と肌が鳴るほど叩きつけられたと思えば中ほどの龍の弱みを狙い澄ますように、小刻みに前後動を繰り返す。最初の挿入で弾けた性器はうすっぺらい腹や胸を自ら汚していて、粘度の高い体液を八色が掬いあげて口元にもっていく。止めようと慌てて伸ばした手はすんでのところで間に合わなかった。

 そんなことを、あんたがする必要はないのに。複雑な回路は省略され、感情が身体に直結している今は隠し事ができない。涙が眦をぼろりと転がり落ちて、見おろす八色も気づいてはいたようだが流れるままにして律動を繰り返す。きもちよすぎて変になりそうだった。淫らに乱れる様を、上からつぶさに見られている。嫌なのにそれにもたしかに昂奮を煽られていた。

「も、やだ、……ぁっ、ぅあっ」
「のわりに、ナカうねってっけど?」
「ひあ、……ッン、あっ、あっ、おくぅ、」

 ズンと欲しいところに嵌めてくれて、掠れた悲鳴を洩らし龍はまた達した。不規則に収縮してなかがずるずる八色をしゃぶる。射精を促すしぐさにさせるかというように彼が挑戦的な笑みを湛え、汗を落としながら腰を振りたくる。こんな、誰もに求められるような男が自分のために心を尽くし、全身で愛を与えてくれているとわかって胸が熱くなった。

 どうしても零れてしまう声を押さえ込むため口元にやっていた手をおずおずと八色の逞しい腕に這わせる。先のことを考えて傷痕まできれいに消すべく通院が長引いているとぼやいていただけあって、左腕に凶行の痕は殆ど残ってなかった。よかった、と唇だけで唱える。

 互いの息がシーツを散らかす。暑くて熱くてたまらないのにもっとすり寄せて肌のぬくみに溺れる。ずっと淋しかった、会いたかった、こうしたかった、何も言えないけれどちゃんと伝わっていると信じる。

「いく、香……っ俺もう、あ、ああっ、や……!!」
「んっ……く、とぉる……ッ」

 ひときわ深々と穿たれてびくびくと狭い通り道で八色が震える。いま出されてる、すげえたくさん、頭の悪いことを思いながら龍も先端から力なく吐精していた。ろくに呼吸が整わないのに激しくくちづけを降らされ、前後も上下もわからない。もがくように恋人に腕をまわして必死にしがみついた。
 まるで直接注がれたみたいに胎内があたたかい。幸せな気持ちでパンクしそうになり、ゆっくりと吐いた息が我ながら満足ですと言わんばかりで、なんだか恥ずかしくて目を合わせられない。そっと視線をうつむけた龍に、八色は「かわいいな」と耳元で囁いた。他の時なら声を大にして否定するけれど、今だけは別の言葉と同義と受け取って甘んじる。

「……ンッ、はぁ……」

 身体がふたつに分かたれる感覚にぞくっと震え、同時にすこしほっとして龍はくたりと四肢の力を脱いた。嵐のようだった呼吸が落ち着いて心地よい疲れと充足感に浸されるこの瞬間が好きだった。勿論気持ちがいいのは最中だが、今日は特にあまりしない体位だった所為かブランクからか、何が何やらを久々に味わった気がする。

 いつの間にか龍も汗をしていた。背中が気持ち悪かったので寝返りを打とうとして、視界にフッと影が掛かる。見あげると端整な造作と視線がかち合う。鬱陶しげに髪を掻き上げる所作が腹立たしいほど様になっていた。白皙の頬が熱の色を透かしているのも、長い睫毛に縁取られた切れ長の双眸が潤んでいるのも目の毒としか思えない。

 そうして顔面にばかり気を取られていたので、下半身はがらあきだったのだ。

「えっ……う、っそだろ、……あぁっ、ぅぁ、」

 当惑するうちに龍の中へ八色は完全におさまってしまい、乾く暇も与えられずに、揺れる己の膝と発情する彼の美貌をふたたび眺めることになる。脚をかかえ直しながらぐりぐりと腰をまわされて油断した悲鳴があがった。まだ敏感な内壁を抉る熱芯が硬度を取り戻しているのに理解が追いつかない。だってついさっき出したよな?

「待て、待っ……ちょ、まだ」
「あ?」
「香ぬいて、俺、無理、っだから、」
「こっちが無理だわ、いつぶりだと思ってんだよ」
「うあっ、……~~ッッ!」

 せめて一休みしてからという譲歩も聞いてもらえない。八色のかたちを思い出し、やわらかく沿って時に食い締め、うねうねとねだる身体は最早龍のものではない。強引に開かれてさえ甘く喘ぎ声を洩らしてうっとりと恍惚に酔い痴れる。自分のために欲しがった代償は主導権となけなしの体力だった。

 仲直りの長い夜が、蜜と涙に濡れながら更けてゆく。



 
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