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お別れするしかないみたい
05
しおりを挟む「……俺も馬鹿だよな、ハタチにもなってこんなことでビービー泣くなんて恥ずいわ」
それに家庭環境や将来のこと、学業のこと、他にも頭を悩ませなければならないネタには事欠かないのだ。全部待ってはくれない。多少苦しくても無理をしても、同時進行で考え決めていかなければならない。誰でもやっていること。
ものすごく時間がかかってしまったがようやく食べ終えて、ささっと洗い物を済ませると龍はあたたかい緑茶を淹れた。これも「若い男の子なのにちゃんとできるなんて」と事務所で褒められた覚えがある。10代男子って動物か何かと思われているのだろうか。
「そういえばこないだの宇宙人の生態の話、面白かったな」
「ああ、食堂で話した時の?」
「ビッグファーザーとグレートマザーってお互い以外とも恋に落ちたりするのか?」
「え……」
「だって『舟』に乗って旅してきたとはいえ、もう夫婦関係じゃねえわけだろ。それぞれが降り立った星の生命体とうまく行ったりすんのかな? それとも一生一緒?」
宇賀神の正体ビッグファーザー説はじかに訊く以外確かめようがないため、龍ひとりの中でふわっとさせたままにしてある。仮にそうだとしても特に悪影響がないなら友人関係に何ら支障はないし。すこしくらいならあっても我慢する。
ただ純粋に気になったのだ。新しい環境に飛び込んで、新しい出会いをして、それに揺らがずにいられるものなのかどうか。龍と歩の状況にすこし似ている。具体的にどのくらいかは知らないが、そこそこ長く居れば関係性はすこしずつ変わっていくと思う。というより自分はそれで歩から気持ちが離れていってしまったのだ。共にあることが自然になりすぎて、恋の熱が友愛や親愛へと変わっていった。
運命とあの時はくちにしていたが、ファーザーとマザーとして生まれついたこともまたそうなのではないのだろうか。それとも宿命じゃないから更新されていく。当人にすればひとつひとつが強く貴いものだとしても、次から次に現れたら、端から見ればそれは軽薄なことにならないだろうか?
なんて、こんなのはただ己を正当化したいだけのエゴだな、と我に返ってかぶりを振る。ふと目をやると宇賀神の大きな瞳が刹那チカッと光った気がした。
「須恵くんは、どうしてそれを知りたいの?」
「いや単純に俺の中で疑問だっただけ。まあ踏み込んだ話題だし、忘れてくれ。誰に言うつもりもねえから」
「……そう」
呟いてマグカップを両手で持ち上げる彼にもうそんな変化は見られなかった。何だったのだろう。たぶん見間違いだと思うことにして、龍は立ち上がり急須と自分のカップをシンクに置く。風呂に入って寝よう。だいぶ深い時間まで付き合わせてしまったが、宇賀神はまったく眠そうな様子がないので驚いた。夜は強いタイプらしい。
宇賀神のカップも片付け、火の元を確認してからキッチンの照明を消す。二階へあがって彼の寝床を整え、自分の寝間着を出しているとふとチェストの底にある安っぽいテカテカしたシャツが目に入る。懐かしい物を見つけてしまった。それにもうすぐ一年経つのか。
「ところで宇賀神は31日どうすんだ?」
「まだ何も考えてないかな。須恵くんは? 黒猫なんてすごく似合うと思うけど」
「いや~男のネコミミって……」
何よりも先にあの衝撃的なネっさんのビジュアルが浮かんでしまい、しばらく笑いがおさまらなかった。くっくっとおとなしくも長々とウケ続けている龍に宇賀神は不思議そうにする。説明してあげたいのはやまやまだが秘密なのだ。それにあれは言葉でより肉眼で見たほうが絶対に面白い。面白いと言ってしまったか。
龍の通う大学では、ハロウィーンの日に催される特に屋外でのイベントの参加が原則禁じられている。その救済措置として構内にかぎり一日だけ仮装OKになるのだ。最近は地味ハロウィーンなるものが流行っていて、定番の悪魔や狼男、吸血鬼、魔女などのような設定のない現実世界の『△△する○○』を忠実に再現して本人とわかる者だけで愉しむ趣向らしい。便乗して芸能人やアニメキャラのコスプレをする勢力も根強くおり、あちこちに和服を着た学生がいたのが昨年の印象だった。
まったく知らずにごく普通の服装で登校してしまった龍は、更衣室として提供される空き教室で歩に無理やり着替えさせられ、何故か用意してあった男バニーをする羽目になった。しかも「八色さんとプレイに使って♡」などと衣装を押しつけられたため、この下にはカットベストと尻尾つきの黒パンツ、朱い蝶ネクタイ、そして黒いウサミミが仕舞われている。いかがわしすぎて人目につく恐れのある場所に収納できないのだ。ギリギリと歯噛みするがこの場に犯人はいないので、知りもしないのがまた腹立たしい。
そもそもプレイって何だ。そんなことはしないし、するにはこれは布面積が多すぎるのでは。いやしたことはないけれど。する予定も無かったけれど想像だ。あくまで何となくのふわふわした知識だとそんな気がする。
「しかし宇賀神の去年のエイリアンコス、すげえクオリティ高かったよな。特殊メークまでしてる奴はなかなか見なかったわ」
あまりにも素晴らしすぎて映画研究会にスカウトされていたが、あれはどうなったのだろう。どこへ行っても黒山の人だかりが生まれるほど人気だった。教授にも頼まれて記念撮影に応じていた。
「そう? ありがとう」
「俺も写真撮ってなかったっけ? たしか……」
言いながら龍はスマホのアプリを遡ってみたが、どれだけさがしても画像は残ってなかった。たしかにみんなで撮った筈なのに。
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