13 / 69
幸せだったかどうか教えてくれない
02
しおりを挟む龍などは歩に合わせて受験したためそもそもの入り口からだいぶ努力を強いられている。友人達の助けを借りて何とか頑張っている、というのが実状だった。大学の勉強が高校までと違い点数がすべてじゃなくて心底よかった。基礎演習など初めはどうしようかと思ったものだけれど。
「ふたりはどうして考古学専攻なの」
言われてみると一二三が薬学部にいるのは、その、魔法使いの調合的なことに役立つからなのか、と気が付く。人体に対しどういう影響を及ぼすか、毒や薬について深く学べる。
「俺さー、子どもの頃から博物館が好きなんだよね」
恐竜が好きで通い詰めていた話は聞いたことがあるし、志望動機は受験するにあたって教えてもらっていたので、龍は耳になってもちもちとノルマを食べ進める。
実際に現地へ飛んで自らの手で化石を発掘するのがそれは一番楽しいのだろうが、生計を立てるのはかなり難しいし学術的にも成功を修めなければ参加すらできない。地元のアルバイトではないのだ。さしもの歩もそこまで楽天的ではないようで、そこから派生して学芸員を今のところは目指していると結んだ。
ふたりとも何かしらの目標をもう見つけている。しかも恐らく大学に入るまえから。龍は、ただ歩と一緒に過ごしたくてついてきたようなものなので、おなじ学科にいるけれど特に何を見据えているわけでもなかった。折に触れその不安もじわりと取りついてくる。知っていて歩は、サラダのカップから顔をあげ、ふたたびポテトをつまむ。指先に付着した塩粒をぺろりとやってからこう振ってくれる。
「龍はめちゃくちゃ動物に好かれるじゃん? その道に進んだらいいのに」
心の中ではとても好きだが、人間にさわられることが動物にはストレスになると本で読んでからは必要以上にさわらないよう気を付けている。それが功を奏してかたしかに龍は気難しいと宣告されて預けられる子とも仲良くできたりする。というか歩が警戒されるのはお喋りなので怖がらせるし、服が汚れるとこれまたいちいち何か言うし、香水くさいからだと思いつつ「一瞬だけ獣医になりたいって思ったことはあった」と告白する。
「でも高1ん時、数学のテストで0点とってナシだなって諦めた」
「0点……」
「ま、まあ誰にでも向き不向きはあるよな」
そう言いながら歩は理系も得意だったのを知っている。2年で文理の選択をする際に数学教師から本当に文系でいいのかと念を押されていた。試験前と言わずいつも彼に勉強を教わっていた龍なので、先生にでもなればいいのにと思っていた。
だが今は、女子高生が餌食にならずに済みそうで勧めなくてよかったと強く信じている。なんなら男子高校生にも感謝されるかもしれない。ひとりで頷いていると胡乱げな視線を感じた。でも別に、モテはするが浮気はされなかった。思い出さなくていいことを思い出して、龍はくちのなかが苦くなるのに眉を寄せる。
誰とでも打ち解ける歩は、龍と付き合っていたばっかりにフリーじゃないと明言できず、たくさん事故を起こしていた。彼を取りあって女生徒の間でかるいイジメが行なわれ、問題になったこともあったくらいだ。それでもカモフラージュの彼女など一切つくらず歩は龍の彼氏でい続けた。軽薄に見えるけれど、芯は一途な性格なのかもしれない。
ろくでなしの才能があるのはむしろ龍のほうだ。嫌いで別れたわけじゃない所為で、八色といても、歩のことを考えてしまう時がある。たぶん表情や態度には出てないと思うのだが、だからってしていいとも言えない。しないほうが好ましいに決まっている。両方に失礼だから。
八色が好きだ。かっこいいし傍にいるとどきどきする。触れたいし触れられたい。それが恋心の証しなのだと思う。しかし歩ともまだ友人ではあるので、完全に頭から締め出すのは難しいし不自然だ。だから変なことじゃない。俺はあの女とは違う。ぐっと下唇に歯を立てる龍に気づいて歩が「どうした?」と横からそっと声を掛けてくれる。なんでもないと首を振った。
「あら? このアップルパイは」
「それ俺の奢り。たまちゃん今月厳しいって言ってたろ」
「えーウソ、ありがとう」
敢えてはっきり言ってくれたほうが好意も受け取りやすい。歩はちゃんとわかっている。それが彼女の好物だともよく寄るため龍も識っている。ふたりともアルバイトはしているが小遣い制のようで、教材費や交際費、こういった突発の食事代を合わせると特に一二三はいつもカツカツらしい。
金銭的余裕もそうだが時間の余裕がないためバイトを増やすことも侭ならない。頭を悩ませる一二三は大変なのだろうが、龍にはすこし羨ましい。それが普通だろうと思うからだ。
地元を離れているわけでもないのに定期的に口座にわさっとまとまった額を振り込まれる。そこから学費食費消耗品代を賄う。中学生の頃からそうやって生きてきた。二親は健在で揃っているにもかかわらず。アルバイトで稼いだ分は別に貯めてそちらをメインにし、意地でも必要以上には親の金をあてにしなかった。さすがに家庭環境が悪かったから成績がふるわなかったとは言わないけれど、たとえば人格形成において悪影響を及ぼしているのは、間違いないと龍は思っている。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。
【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど?
お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
神さまに捧ぐ歌 〜推しからの溺愛は地雷です〜【完】
新羽梅衣
BL
平凡な大学生の吉良紡は今をときめくスーパーアイドル・東雲律の大ファン。およそ8年前のデビュー日、音楽番組で歌う律の姿を見て、テレビに釘付けになった日を今でも鮮明に覚えている。
歌うことが唯一の特技である紡は、同級生に勝手にオーディション番組に応募されてしまう。断ることが苦手な紡は渋々その番組に出演することに……。
緊張に押し潰されそうになりながら歌い切った紡の目に映ったのは、彼にとって神さまのような存在ともいえる律だった。夢見心地のまま「律と一緒に歌ってみたい」とインタビューに答える紡の言葉を聞いて、番組に退屈していた律は興味を持つ。
そして、番組を終えた紡が廊下を歩いていると、誰かが突然手を引いてーー…。
孤独なスーパーアイドルと、彼を神さまと崇める平凡な大学生。そんなふたりのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる