12 / 69
幸せだったかどうか教えてくれない
01
しおりを挟む何時から何時まで、という具体的な縛りがなく空き時間に顔を出せば何かしらの仕事を与えてもらえるのは時間割が不規則な大学生にはちょうど良いアルバイトだった。話に聞くかぎり必ず空く深夜帯か曜日固定で時間固定が主流の中、龍と歩は毎日のように暇潰し感覚でもっふぁ~に通っている。一二三はもうすこしカリキュラムが詰まっているので頻度が下がる。それに女子学生なので、周囲にもあまり遅くなると切り上げさせられることが多かった。
今日はくだんの元気くんを時間ぎりぎりまで捜したのだが見つからず、事務所で報告を終えて帰り道、というていで諦めきれずに地図と写真を手にだらだら捜索を続けている。
「ふたりとも本当にいいのか? 俺は遅くなれるけど」
水曜日なので八色は生放送がある。帰宅は日付をまたぐため食事も作らなくていいことになっていて、龍は自由だ。歩も一二三もたしか自宅住みで、歩は一年前まで龍もちょくちょくお世話になっていて家族がとても寛容なのは識っているが、一二三はけっこう親が厳しいとぼやいていたような。何なら歩に送らせて、龍はひとりでもかまわなかった。
音は今日は姿を見ていない。それと馨子が、昨日徹夜したとかで調に無理やり休みを取らされたらしく不在だった。ペット関係の仕事とあって週末のほうが客が多く催事もあるため年中無休のようなものだ。一応月に四回、スケジュールの白い日を不定期で休みと決めるのだが、緊急の方はこちらへと連絡先も示しているのであまり意味がなかったりする。
忙しい時は忙しいが、暇な時は本気で何にも仕事がない。そう面接で説明を受けている。「私らは暇なほうがいいんだよ」と馨子はしょっちゅう言っているけれど残念なことにそうでもないのが現状だった。
「ひとりぼっちは寂しいじゃん」
「真面目にやらねえんなら帰ってくれたほうがいいけど?」
「やるやる超やる」
気概はどうでも口調が軽すぎる。龍に睨まれて、歩はわざとらしく肩を竦める。
「腹減ったなあ」
「あ、私も」
俺の話聞いてたか?と言いたいところだが初めからこのような予定ではなかったため龍も特に何も用意してきてなかった。かれこれ昼過ぎから何も食べてない。最寄駅とも違うので、どうしたものかなと見渡して運よくファストフード店の看板を発見する。幸い24時間営業だ。
折よく雨がぱらついてきたので一時避難で入店することにした。今日は朝からずっとこんなふうに降ったりやんだりを繰り返している。三人とも雨傘を持っていたが盗難を警戒してビニールに入れ店内まで持ち込む。先に注文を済ませてから席をさがした。調子のいい歩が、女性店員と談笑している。
夜が深まってきたのもあり子ども連れは見あたらないが閑散ともしてなかった。パソコンを持ち込んで作業をしている人や自分達みたいな大学生、私服の高校生もいる。昼間はお年寄りと子どもが多いので逆転しているイメージ。
スマホを点けると八色から帰宅の確認メッセージが来ていた。今日はちょっと遅くなると正直に返しておく。既に番組は始まっている時間なので返信は来ないだろう。ポケットに流し込むとぶるりと震えがきた。秋の雨はつめたくて寒い。
季節はこれからどんどん冬へ向かっていく。早く見つけてあげないと、特にこんな悪天候の日はそんな気持ちで胸が痞える。犬は人間よりずっと寒さに強い生き物だがろくに餌も貰えない栄養状態では病気にだってなってしまうかもしれない。再度地図に目を落としていると歩がでたらめにいい匂いのもとを持って、テーブルにやって来た。
「お待たせ~」
二枚のトレーいっぱいに熱々の商品が載っている。さっさと片付けて捜索に戻ろう。食事の時は食事に集中する。潔く地図を畳んで、龍は白身魚のフライが挟まったハンバーガーを手に取った。
ポテトフライを咥えていた歩が「龍それ好きよな」とお決まりの文句を言う。いつも言われるので変えようかとも思うが、なんで歩ごときのために自分が折れなければならないのか意味がわからないため、結局また頼んでしまって聞かされる羽目になる。一二三は肉が二枚入ったボリュームのある物を選んでいた。
夜なので控えめに、などとダイエット中の女子高生みたいなことを言うのはむしろ歩だった。そもそもそういう思想の者はこのような店に来てはいけないと龍は思う。百害あって一利なし。
「たまちゃん明日はいんの?」
「どうだろう……課題の進みが良かったら」
「けっこうきついんだな」
「あーあれじゃん? 薬理学の先生」
文学部では世話になりようがないのだが、薬学部には名物教官がいるとたしかに龍も小耳に挟んだことがある。かなりの美女で学生に厳しいが自分にも甘くない努力型で、年配の男性が多い教授会の中で孤軍奮闘しているとかなんとか。しかし一二三は優等生の部類に入るようなので、これでもうまくこなしているのだろう。まだひとつも単位を落としてないのは偉い。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!
toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」
「すいません……」
ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪
一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。
作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる