愛してしまうと思うんだ

ゆれ

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幸せだったかどうか教えてくれない

01

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 何時から何時まで、という具体的な縛りがなく空き時間に顔を出せば何かしらの仕事を与えてもらえるのは時間割が不規則な大学生にはちょうど良いアルバイトだった。話に聞くかぎり必ず空く深夜帯か曜日固定で時間固定が主流の中、とおると歩は毎日のように暇潰し感覚でもっふぁ~に通っている。一二三どれみはもうすこしカリキュラムが詰まっているので頻度が下がる。それに女子学生なので、周囲にもあまり遅くなると切り上げさせられることが多かった。

 今日はくだんの元気くんを時間ぎりぎりまで捜したのだが見つからず、事務所で報告を終えて帰り道、というていで諦めきれずに地図と写真を手にだらだら捜索を続けている。

「ふたりとも本当にいいのか? 俺は遅くなれるけど」

 水曜日なので八色やくさは生放送がある。帰宅は日付をまたぐため食事も作らなくていいことになっていて、龍は自由だ。歩も一二三もたしか自宅住みで、歩は一年前まで龍もちょくちょくお世話になっていて家族がとても寛容なのは識っているが、一二三はけっこう親が厳しいとぼやいていたような。何なら歩に送らせて、龍はひとりでもかまわなかった。

 音は今日は姿を見ていない。それと馨子が、昨日徹夜したとかで調に無理やり休みを取らされたらしく不在だった。ペット関係の仕事とあって週末のほうが客が多く催事もあるため年中無休のようなものだ。一応月に四回、スケジュールの白い日を不定期で休みと決めるのだが、緊急の方はこちらへと連絡先も示しているのであまり意味がなかったりする。

 忙しい時は忙しいが、暇な時は本気で何にも仕事がない。そう面接で説明を受けている。「私らは暇なほうがいいんだよ」と馨子はしょっちゅう言っているけれど残念なことにそうでもないのが現状だった。

「ひとりぼっちは寂しいじゃん」
「真面目にやらねえんなら帰ってくれたほうがいいけど?」
「やるやる超やる」

 気概はどうでも口調が軽すぎる。龍に睨まれて、歩はわざとらしく肩を竦める。

「腹減ったなあ」
「あ、私も」

 俺の話聞いてたか?と言いたいところだが初めからこのような予定ではなかったため龍も特に何も用意してきてなかった。かれこれ昼過ぎから何も食べてない。最寄駅とも違うので、どうしたものかなと見渡して運よくファストフード店の看板を発見する。幸い24時間営業だ。
 折よく雨がぱらついてきたので一時避難で入店することにした。今日は朝からずっとこんなふうに降ったりやんだりを繰り返している。三人とも雨傘を持っていたが盗難を警戒してビニールに入れ店内まで持ち込む。先に注文を済ませてから席をさがした。調子のいい歩が、女性店員と談笑している。

 夜が深まってきたのもあり子ども連れは見あたらないが閑散ともしてなかった。パソコンを持ち込んで作業をしている人や自分達みたいな大学生、私服の高校生もいる。昼間はお年寄りと子どもが多いので逆転しているイメージ。
 スマホを点けると八色から帰宅の確認メッセージが来ていた。今日はちょっと遅くなると正直に返しておく。既に番組は始まっている時間なので返信は来ないだろう。ポケットに流し込むとぶるりと震えがきた。秋の雨はつめたくて寒い。

 季節はこれからどんどん冬へ向かっていく。早く見つけてあげないと、特にこんな悪天候の日はそんな気持ちで胸が痞える。犬は人間よりずっと寒さに強い生き物だがろくに餌も貰えない栄養状態では病気にだってなってしまうかもしれない。再度地図に目を落としていると歩がでたらめにいい匂いのもとを持って、テーブルにやって来た。

「お待たせ~」

 二枚のトレーいっぱいに熱々の商品が載っている。さっさと片付けて捜索に戻ろう。食事の時は食事に集中する。潔く地図を畳んで、龍は白身魚のフライが挟まったハンバーガーを手に取った。
 ポテトフライを咥えていた歩が「龍それ好きよな」とお決まりの文句を言う。いつも言われるので変えようかとも思うが、なんで歩ごときのために自分が折れなければならないのか意味がわからないため、結局また頼んでしまって聞かされる羽目になる。一二三は肉が二枚入ったボリュームのある物を選んでいた。

 夜なので控えめに、などとダイエット中の女子高生みたいなことを言うのはむしろ歩だった。そもそもそういう思想の者はこのような店に来てはいけないと龍は思う。百害あって一利なし。

「たまちゃん明日はいんの?」
「どうだろう……課題の進みが良かったら」
「けっこうきついんだな」
「あーあれじゃん? 薬理学の先生」

 文学部では世話になりようがないのだが、薬学部には名物教官がいるとたしかに龍も小耳に挟んだことがある。かなりの美女で学生に厳しいが自分にも甘くない努力型で、年配の男性が多い教授会の中で孤軍奮闘しているとかなんとか。しかし一二三は優等生の部類に入るようなので、これでもうまくこなしているのだろう。まだひとつも単位を落としてないのは偉い。
 
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