9 / 69
ラブアンドライフ
03
しおりを挟むところが八色は黙っていれば王子様でも、ひとたびくちを開くと下品な言葉も平気で言い放ってしまう問題児だった。注目の切っ掛けも番組でのトーク内容と見た目のギャップが激しすぎることからだ。育ちは良いのにとんでもなくくちが悪く、しかも複数の意味で手が早い。その無駄に果敢だった変態どもも「つかまえてガッスガスに踏んで使い物にならなくしてやった」そうなので、知らないところで無体を働かれる心配は然程しないのだけれど。
痴漢以外にも待ち伏せされたり家まで尾行されたり、自転車を盗まれたりと、外を歩いていてろくな目に遭わなかったため八色は早くからマイカーを乗り回していたらしい。もはや疲れて「痴漢に遭ってから考えます」と無理やりまとめると、龍の機嫌が麗しくなくなったのを察して取り敢えずは諦めてくれる。カタログをテーブルに戻す。
そんなシュレーディンガーの変態よりもずっと恐ろしい存在がごく近くにいる。こそこそ隠してないあたり、すくなくとも八色に他意はないと思っているが、彼は歩といつの間にか連絡先を交換していたのだ。たしかに初めはセットで新しいバイトくんと認識されていたのかもしれない。でもこうして片割れと交際するようになったら、もう片方とは程よく距離を置いてほしい。この件に関しては、さしもの龍も歩に強く言っている。
八色には「もし龍と連絡とれない時があったら使うかと思って」と説明された。一方歩は「龍だけの八色さんだもん♡かよ~」とからかってまともに取りあってくれない。龍はどこまでも本気で嫌がっているのに。わりと嫉妬する性質は識っているくせに、怒らせて愉しんでいるのかもしれなかった。
(ムカつく)
不実の腹癒せというよりは、自分が気にしないから他人も気にしないと思っているタイプなのだ。付き合っている時も歩はあまり妬いたりしなかった。心変わりを打ち明けても、予想していたよりずっとあっさり了承してくれた。殆ど責められもしなかったように記憶している。次から次にあとが来る者は執着しなくて済むのだろう。精神もさぞ健全そうでいいなと羨む。
そもそも龍がモテないので妬けないか。満を持して登場した八色は、奇特なうえに明らかに歩よりハイレベルだったため嫉妬する気も起きなかったのだろうか。そんな筈は、あるか~とひとりで苦む。親も含めて誰かの目に留まる人間だと思ったためしもなかった。だから八色に迫られて、免疫がなかった所為でいなすことができずあっさり奪われてしまったのだ。
「飯、足りた?」
「おん」
数すくない長所のひとつ。もっふぁ~でも以前イベントで炊き出しの機会があって、手際が良いと兼業主婦の職員にお褒めの言葉をいただいた。「お母さん嬉しいでしょうね」のひとことには同意できなかったけれど、曖昧に礼を述べておいた。龍は母に教わったから料理ができるのではない。
「じゃあ寝るか」
うーんと伸びをした龍に、八色が待ってましたとばかりに顔を輝かせる。こういうところはちょっと犬っぽい。失礼なことを考えながら寝室に入り大きなベッドにばふっと顔面から飛び込むと、すぐにひっくり返されて唇を覆われた。元気だなと感心する。
互いのくちのなかを温度の異なる舌が行き来する。つめたそうな白皙に似合わず高い体温にとろけそうになる。長い腕がうすい上半身にまわされ、布地越しに骨格を辿られる。突きだしたかいがらぼねにキスを落とされるのが好きだった。龍のそこには小さなほくろがある。元彼に言われたので識っている。
「ん……」
映画やドラマよりうんと控えめなリップ音は手足がシーツをすべると途絶えるくらいだった。目を閉じてまなうらの覚束ない色を眺めながら、てさぐりで龍からも八色の胸板や締まった腹を服の上から撫でさする。シルエットは細いのに脱ぐと逞しいのでどきどきするのだ。八色はいろんなギャップで出来ていて、こういうところもまた人を惹きつけてやまないのだろう。
体重にそこまでの違いはないのに、裸になると歴然だから虚しい。しかし八色は脱がせたがるし自分も脱ぐ。人肌が心地よいのは同意するけれど、龍は恥ずかしいので部屋を暗くするか、あまり見えないよう布団の中へもぐり込みたかった。
遮光カーテンに守られたこの安全地帯を覗く不躾な輩は今はいない。わかっている。それでも常にどこか不安が付きまとう。こんなに傍にいるのに、これ以上なく近くを許してもらっているのに、ちゃんと満たせない自分はきっと生来、器にひびが入っているのだろう。集中してないのを気取られて八色に優しく唇を噛まれる。ちょっと笑って、龍はより深くまで彼を招き入れた。
「……あっ、う」
からみついていた腕をそっと解かれると喉元までTシャツを捲られ、乳首を指でいじめられる。途中腹側でこねるようにやわらかく撫でられまた強く爪でピンと弾かれて、繰り返されるとじんと痺れが通ってくる。痒みに似た刺激を生むまで続けられてからちゅうとくちに含まれた。そのままあたたかい咥内でれるれると舐られる。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。
【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど?
お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
神さまに捧ぐ歌 〜推しからの溺愛は地雷です〜【完】
新羽梅衣
BL
平凡な大学生の吉良紡は今をときめくスーパーアイドル・東雲律の大ファン。およそ8年前のデビュー日、音楽番組で歌う律の姿を見て、テレビに釘付けになった日を今でも鮮明に覚えている。
歌うことが唯一の特技である紡は、同級生に勝手にオーディション番組に応募されてしまう。断ることが苦手な紡は渋々その番組に出演することに……。
緊張に押し潰されそうになりながら歌い切った紡の目に映ったのは、彼にとって神さまのような存在ともいえる律だった。夢見心地のまま「律と一緒に歌ってみたい」とインタビューに答える紡の言葉を聞いて、番組に退屈していた律は興味を持つ。
そして、番組を終えた紡が廊下を歩いていると、誰かが突然手を引いてーー…。
孤独なスーパーアイドルと、彼を神さまと崇める平凡な大学生。そんなふたりのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる