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本編

◇ 第三夜 ①

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 その夜も扉はゆっくり三回叩かれ、サーシャが入ってきた。
 跪いて手の甲にくちづける儀式を自分からやめてほしいと言ったにもかかわらず、サーシャの次の動きが読めず、コンスタンツェは手持ちぶさただった。サーシャはそんな彼女の心情を慮ったのか、くすりと笑って言う。

「本日もお身体を拝見することはありませんから、その点はご安心ください」

 サーシャはやはりコンスタンツェを抱き上げて、寝台へそっと下ろした。

「力を抜いていただくのが肝要かと存じます。瞼を閉じていただけませんか」

 瞼を閉じれば何も見えなくなる。何をされるかわからない恐怖から、コンスタンツェはなかなか指示に従うことができない。

「私が七を数える間だけで構いません。一…………二…………」

 宣言通りサーシャが数え始める。それくらいの短い時間ならば、ひどい目には会わないだろう。コンスタンツェはそっと瞼を閉じた。

「三」

 コンスタンツェの右の耳に何かがふれた。やわらかく、温かいもの。彼女が困惑していると、サーシャの次の声が響いた。

「四」

 コンスタンツェの左の耳にそっと、同じものがふれた。

「五」

 やわらかく温かい何かは、コンスタンツェの右の瞼に落とされた。ということは、次は。

「六」

 コンスタンツェの予想通り、次は左の瞼だった。

「七」

 最後にふれたのは額。瞼を開けると、ちょうどサーシャの唇が離れたところだった。
 コンスタンツェもまるっきり想像していなかった訳ではない。けれど、目の当たりにすると鼓動が高鳴った。

「……何をなさったのですか」
「幸せをもたらすおまじないです」

 サーシャは魅惑的な笑みを浮かべるけれど、コンスタンツェは信用ならないと反射的に思った。だが、それはなぜなのか、コンスタンツェの思考は続かない。目の前がかすみ、音の響きもなんだかぼんやりしてきた。

「早速効いてきたようですね。本当にコニーは素直です」

 サーシャのくすくすという笑い声をなんだか遠くに感じながら、コンスタンツェは問うた。

「なにを、したの、ですか……」
「ある感覚が遮断されると、通じている残りの感覚は逆に鋭敏になります。そして、コニーはいつも考え過ぎです。今から嗅覚と味覚を使っていただく予定はないので、視覚と聴覚と思考を封じれば、触覚に集中していただけるはずです」
「ええ……?」

 サーシャはコンスタンツェの腹に手のひらを置いた。

「ここに熱と快感がどんどんたまっていきます」

 夜着を着たままのコンスタンツェの腹を、サーシャは円を描くように優しく撫でさする。しばらく撫でてもらっているうちに、言われた通り、コンスタンツェの身体の奥は熱を帯びてきた。

「素直ですね。しっとり汗ばんでいます」

 サーシャの手がコンスタンツェの開いた胸元に移動した。夜着の上から胸を揉まれると、乳首が繊維に擦れるせいで、なんだかひどく感じてしまう。コンスタンツェが自分で直接胸をさわっても、特にどうということはなかったのに。サーシャの手つきが優しいことが、却って官能を呼び起こしていた。
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