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19 腹が減っては戦ができぬ ①
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冷蔵庫がついに壊れた。
冷蔵庫のコンセントを抜く。中のあかりがすっと消える。
終わった。ほんとに終わった。
「壊れたら、俺に声掛けて」
佐藤、そう言ってたな。また一緒に選んでくれるつもりだったのかな。
佐藤と社外で会わなくなってから、ごはんを作るのがひどく億劫になってしまって、今、冷蔵庫の中にはほとんど何も入ってない。だから、新しい冷蔵庫なんかなくても、生きていける。とりあえず当座は。
私を救ってくれたのは仕事と仲間だった。
少し目をかけてあげるだけで着実に成長していく杉山ちゃんが可愛くて仕方なくなってきた。それを彼女も感じ取っているのだろう、安心して作業に取り組んでいるのがよくわかる。それに伴ってミスも激減した。
練習がてら、杉山ちゃんとお互いの作業をダブルチェックするようになった。チェック作業に慣れてくれるといいな、と思って始めたことだけど、私の作業内容を知ることで、自分の作業の全体像がつかみやすくなっているようだし、私も杉山ちゃんの資料を見て、今こんな案件が進行中なんだと把握できるようになった。
そして、逆に私のミスを教えてもらうこともある。ありがとうとお礼を言うと、「広瀬先輩、以前『最後の方になると集中力切れる』とおっしゃってたので、後半を先にチェックしてます!」なんて、笑顔で言ってくれたりする。目線を変えるためのダブルチェックだけど、思わぬ自分の癖に気づかせてもらったり。
戸田ちゃんも何か思うところがあったのだろう。複数の作業を並行してテンパっている杉山ちゃんに声を掛けて内容整理をしやすくしてくれたり、おつかれさまと言ってそっと差し入れのお菓子を手渡したりするようになった。仕事はそつなくこなすけど、誰に対しても必要以上に関わることはしない子だったから、なんだかその変化が嬉しい。
自分でやった方が早いものも、少しずつ杉山ちゃんに回すことにした。最初は私の三倍くらいかかってやっていた杉山ちゃんも、だんだん慣れてきて、私より少し遅いくらいのペースで仕上げられるようになってきた。この調子なら、私と同じくらいのペースで仕上げられる日も近そう。それを見た戸田ちゃんが、広瀬ちゃんが急病とかで休んでも杉山ちゃんに回せるから安心だね、と言ってくれた。
そうか、これが本当の仕組みづくりか。
杉山ちゃんのために始めたはずなのに、むしろ私が学んでいることの方がずっと多い。
仕事は、問題点が見つけやすいし、やった分だけ成果が出るから達成感も得やすい。けれど、生きる上で大事なことは、大抵、問題点そのものがなかなか見えない。
ただ、見えなかったとしても、結果がどうなろうとも、そろそろ立ち向かうべき時が来ている、そんな気がした。
佐藤と話をしなければならない。
佐藤と付き合うか否かでも、私のことを大事に思ってくれていたかの確証を得るためでもなく、自分の中での区切りをつけるために。
冷蔵庫のコンセントを抜く。中のあかりがすっと消える。
終わった。ほんとに終わった。
「壊れたら、俺に声掛けて」
佐藤、そう言ってたな。また一緒に選んでくれるつもりだったのかな。
佐藤と社外で会わなくなってから、ごはんを作るのがひどく億劫になってしまって、今、冷蔵庫の中にはほとんど何も入ってない。だから、新しい冷蔵庫なんかなくても、生きていける。とりあえず当座は。
私を救ってくれたのは仕事と仲間だった。
少し目をかけてあげるだけで着実に成長していく杉山ちゃんが可愛くて仕方なくなってきた。それを彼女も感じ取っているのだろう、安心して作業に取り組んでいるのがよくわかる。それに伴ってミスも激減した。
練習がてら、杉山ちゃんとお互いの作業をダブルチェックするようになった。チェック作業に慣れてくれるといいな、と思って始めたことだけど、私の作業内容を知ることで、自分の作業の全体像がつかみやすくなっているようだし、私も杉山ちゃんの資料を見て、今こんな案件が進行中なんだと把握できるようになった。
そして、逆に私のミスを教えてもらうこともある。ありがとうとお礼を言うと、「広瀬先輩、以前『最後の方になると集中力切れる』とおっしゃってたので、後半を先にチェックしてます!」なんて、笑顔で言ってくれたりする。目線を変えるためのダブルチェックだけど、思わぬ自分の癖に気づかせてもらったり。
戸田ちゃんも何か思うところがあったのだろう。複数の作業を並行してテンパっている杉山ちゃんに声を掛けて内容整理をしやすくしてくれたり、おつかれさまと言ってそっと差し入れのお菓子を手渡したりするようになった。仕事はそつなくこなすけど、誰に対しても必要以上に関わることはしない子だったから、なんだかその変化が嬉しい。
自分でやった方が早いものも、少しずつ杉山ちゃんに回すことにした。最初は私の三倍くらいかかってやっていた杉山ちゃんも、だんだん慣れてきて、私より少し遅いくらいのペースで仕上げられるようになってきた。この調子なら、私と同じくらいのペースで仕上げられる日も近そう。それを見た戸田ちゃんが、広瀬ちゃんが急病とかで休んでも杉山ちゃんに回せるから安心だね、と言ってくれた。
そうか、これが本当の仕組みづくりか。
杉山ちゃんのために始めたはずなのに、むしろ私が学んでいることの方がずっと多い。
仕事は、問題点が見つけやすいし、やった分だけ成果が出るから達成感も得やすい。けれど、生きる上で大事なことは、大抵、問題点そのものがなかなか見えない。
ただ、見えなかったとしても、結果がどうなろうとも、そろそろ立ち向かうべき時が来ている、そんな気がした。
佐藤と話をしなければならない。
佐藤と付き合うか否かでも、私のことを大事に思ってくれていたかの確証を得るためでもなく、自分の中での区切りをつけるために。
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