337 / 352
最終章 ジャックにはジルがいる
335 綺麗は汚い、汚いは綺麗 ③
しおりを挟む
ドッペルゲンガー。
アリスちゃんに紹介されたハジメくんは、確かに新くんと顔立ちが似ていた。けれども、眼鏡を掛けていないし、服装もモード系でシャープな感じ。纏う雰囲気は全然違っていて、なんだかミステリアスだ。
思わずまじまじと見つめてしまったのだろう。くすりと笑われた。
「アリスちゃんに聞いたけど、そんなに彼氏と似てる?」
「不躾にごめんなさい。眼鏡を掛けたらもっと似ているかも」
「残念ながら、僕は漱石よりも谷崎と三島が好きだし、イギリスにはタイポグラフィを勉強しに来たんだけどね」
「タイポグラフィ……」
「そう。スティーブ・ジョブズは大学を中退した後もカリグラフィーの授業には潜ってたそうだけど、それがマックのフォントの美しさにつながっていると言われているよね。確かに綺麗なフォントだと読みたくなるなと思って、僕は作る側になりたくなった」
「ジョブズに憧れたのなら、どうしてアメリカじゃなくイギリスにしたの?」
私の問いかけにハジメくんはにっこり微笑む。
「きっかけはジョブズだったけれど、いろいろなデザインを見比べていくうちに、僕はエリック・ギルに惹かれたんだ。彼は生活を美しく彩る職人だよ。さすが、アーツ・アンド・クラフツ運動に参加していただけある」
エリック・ギル。その名前は卒論でアーツ・アンド・クラフツ運動について調べた時に見た覚えがあった。でも、時間が足りなかったし、なるべくウィリアム・モリスに焦点を合わせようと思ったので、私は特に調べなかった。他にもどこかで名前を見たような気がするから、きっと有名なアーティストなんだろうな。
「私の研究テーマはまさにウィリアム・モリスとアーツ・アンド・クラフツ運動なの! 最初は服飾史にしようかと思っていたけれど、調べていくうちに、生活に美しさを取り入れる考え方そのものに惹かれて!」
「そうなんだ。エリック・ギルの仕事は多岐にわたっていて、『衣装論』も書いているよ。男性がスカートを、女性がズボンを穿く方が理にかなっている、というくだりが有名かな。僕は、布をカットして仕上げる仕立て屋よりも布そのものを活かして美しさを留める裁縫師が素晴らしいと語るくだりが印象的だったけれどね」
「その人……!」
男性がスカート、女性がズボンを穿く方が理にかなっている、というくだりに聞き覚えがあった。おそらく、学会の質疑応答で緑川先生が挙げておられたものだ。研究テーマを変更する前に、三浦先生も私に読ませようとしておられたようだし、もしイギリスの服飾に研究テーマを絞っていたなら、大きな関わりを持っただろう人。選ばなかったIFの世界が垣間見えたようで、ハジメくんの話により興味が湧いた。
アリスちゃんに紹介されたハジメくんは、確かに新くんと顔立ちが似ていた。けれども、眼鏡を掛けていないし、服装もモード系でシャープな感じ。纏う雰囲気は全然違っていて、なんだかミステリアスだ。
思わずまじまじと見つめてしまったのだろう。くすりと笑われた。
「アリスちゃんに聞いたけど、そんなに彼氏と似てる?」
「不躾にごめんなさい。眼鏡を掛けたらもっと似ているかも」
「残念ながら、僕は漱石よりも谷崎と三島が好きだし、イギリスにはタイポグラフィを勉強しに来たんだけどね」
「タイポグラフィ……」
「そう。スティーブ・ジョブズは大学を中退した後もカリグラフィーの授業には潜ってたそうだけど、それがマックのフォントの美しさにつながっていると言われているよね。確かに綺麗なフォントだと読みたくなるなと思って、僕は作る側になりたくなった」
「ジョブズに憧れたのなら、どうしてアメリカじゃなくイギリスにしたの?」
私の問いかけにハジメくんはにっこり微笑む。
「きっかけはジョブズだったけれど、いろいろなデザインを見比べていくうちに、僕はエリック・ギルに惹かれたんだ。彼は生活を美しく彩る職人だよ。さすが、アーツ・アンド・クラフツ運動に参加していただけある」
エリック・ギル。その名前は卒論でアーツ・アンド・クラフツ運動について調べた時に見た覚えがあった。でも、時間が足りなかったし、なるべくウィリアム・モリスに焦点を合わせようと思ったので、私は特に調べなかった。他にもどこかで名前を見たような気がするから、きっと有名なアーティストなんだろうな。
「私の研究テーマはまさにウィリアム・モリスとアーツ・アンド・クラフツ運動なの! 最初は服飾史にしようかと思っていたけれど、調べていくうちに、生活に美しさを取り入れる考え方そのものに惹かれて!」
「そうなんだ。エリック・ギルの仕事は多岐にわたっていて、『衣装論』も書いているよ。男性がスカートを、女性がズボンを穿く方が理にかなっている、というくだりが有名かな。僕は、布をカットして仕上げる仕立て屋よりも布そのものを活かして美しさを留める裁縫師が素晴らしいと語るくだりが印象的だったけれどね」
「その人……!」
男性がスカート、女性がズボンを穿く方が理にかなっている、というくだりに聞き覚えがあった。おそらく、学会の質疑応答で緑川先生が挙げておられたものだ。研究テーマを変更する前に、三浦先生も私に読ませようとしておられたようだし、もしイギリスの服飾に研究テーマを絞っていたなら、大きな関わりを持っただろう人。選ばなかったIFの世界が垣間見えたようで、ハジメくんの話により興味が湧いた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
93
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる