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最終章 ジャックにはジルがいる

329 優しい夢を見る四月の魚 ②

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「まず、A4のコピー用紙を横半分に折って、爪でギーってやって」
「はあ」
「縦半分に折って、爪でギーってやって、割いて」
「ああ、なるほど。綺麗に切れるように」
「そう。二枚に『黒の名字に』『白の名字に』と書いて四つ折りにして左に置いて、残りの二枚に『する』『しない』と書いて四つ折りにして右に置いた。ジャンケンで勝った方が先攻か後攻かを選ぶことにして、椿が勝って後攻の白を選んだ」
「オセロの勝負は?」
「俺の勝ち。椿、悔しそうだったな」

 オセロはよほど上級者じゃない限り後攻が有利だし、僕は姉に勝てたことがないのに。まあ、仁科さんはそういう頭脳系ゲームに強そうな気がする。ポーカーなんかの駆け引きも異常に上手そう。

「オセロで勝ったから、仁科さんの名字なんですか」
「そうじゃなくて、紙の選択権を得ただけ」
「紙?」
「コピー用紙を四等分して、書いて、左右に置いただろう」
「そういう伏線が、ありましたね」
「左から一枚、右から一枚、俺が引いた。『白の名字に』『しない』だったから、仁科になった」
「なるほど、籤引き」
「本当に馬鹿だよ、大馬鹿。誰も得しない決定」

 仁科さんは声を上げて笑う。
 面倒なことこの上ない。たぶん僕は微妙な表情を浮かべてしまったのだと思う。仁科さんの笑い声がますます大きくなった。

「でも、そこまでして平等であろうとした椿に、なんだか感じ入るものがあった。これまで名字に思い入れなんか微塵もなかったけど、新たな意味を持ったというか、俺達の名字として大切にしようかなと思った。今は気に入ってるよ」

 さっぱりした顔の仁科さんを見て、非常に大事なことを言い忘れていたと、僕はようやく気づいた。

「ご結婚おめでとうございます」
「ありがとう」

 仁科さんの笑みはやっぱりいつもの意地の悪さを感じさせるものだったけど、格別に嬉しそうに見えたから、まあ、よしとする。
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