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最終章 ジャックにはジルがいる

318 水平線上に見えたものは ③

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 若葉ちゃんの誕生日プレゼントを今年こそは自力で選ぼう。そう思い、去年藤田さんに紹介してもらったお店の営業時間を検索した。出ない。移転したのかと思い、ブランド名で検索をかけると、半年ほど前にブランドが終了していた。まさかの。こんなところまで不景気の余波が。

 向井は教員採用試験に落ちたので、非常勤で中学社会の教員をしている。ものすごく忙しそうだし、藤田さんも入社一年目で大変だと聞いた。
 今年も自分の誕生日プレゼントを断った手前、若葉ちゃんに訊ねるのも気が引ける。

《若葉ちゃんの誕生日プレゼントにアクセサリーを買いたいのですが、お店を知りません。よかったら教えてもらえないでしょうか。》

 悩んだ末、SNSでメッセージを送ると、返事はすぐに届いた。



「迎えに来てくれてどうもありがとう」
「いえ、一日付き合ってもらうので……」

 姉がピーターラビット号の助手席に颯爽と乗り込んだので、僕はラジオをつけた。

「これ、いつも聞いてる番組なの?」
「いえ、特にそういう訳ではなく……」
「よかったら変えてもいい? 聞きたい番組あるんだけど」

 どうぞと言うと、姉はラジオの周波数を合わせた。たぶんジャズなのだろう、洗練された音楽が流れてくる。曲が終わると品のいい軽妙なトークに変わった。信号待ちでちらりと横を見ると、姉は楽しそうに聞いている。

 どうしてこうなったのだろう。いや、わかっているけど。
 店名だけ教えてもらおうと思ったのに、僕の要領を得ない訊ね方で察したのだろう、《何度もやりとりするのは面倒だし、こういうのはネットの写真で選ぶと失敗するから、空いている日を教えなさい》という返事が届き、同行してもらうことになったのだ。

「何をプレゼントしたいの? アクセサリーといってもいろいろあるでしょう」
「その、指輪を……」
「若葉ちゃんの指のサイズは何号?」
「……その……僕は若葉ちゃんに指輪をプレゼントしたことがなく……」
「私は『サイズは何号?』と訊ねているんだけど」
「…………わかりません」

 やばい、怒られる。どうしてサイズも知らずに指輪を買おうとするんだとか、想定が雑過ぎるとか、本当に彼女のことを好きならもっと考えるでしょうとか、そもそももっと早く買いに行きなさいとか、すみません、全部その通りです。

「そう」
「指輪は次回にします……」
「その方がいいわね」
「今回は……ネックレスにしようか、な……」

 次善の策を考えていなかったので、藤田さんの「ネックレスなら何本あってもいいと思います」という言葉に頼ることにした。
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