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第十章 扉が閉じて別の扉が開く

280 人生は選択の連続である ②

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 作業が一段落し、思わず考えてしまった。
 このリストをまとめるだけでも、結構手間がかかったのでは。しかも大学時代の姉は、論文のタイトルを調べるところからやった訳で。同じ苦労をしろという発想ではない。思いの外、姉は面倒見がいいのかもしれない。
 SNSにメッセージを送る。

《ありがとうございました。論文は無事全てダウンロードできました。書籍は大学の図書館で探し、なければ取り寄せを依頼します。》

 すぐに「Good Job!」というスタンプが飛んできた。よくわからないゆるキャラがドヤ顔をしている。姉は奇妙なスタンプを結構使うのだ。最初は面食らったけれど、もう慣れた。完璧主義で美意識が高い厳しく怖い人というイメージだったけど、それだけではないのかな、という気がしてきている。連絡を取るようになって見えてきた、姉の新たな面。

 姉が「引用元を必ず明記しなさい」と言ってくれたのは、大きなヒントになった。新たな資料を探そうと思ったら、論文に書かれている引用元を辿ればいいんだ。やみくもに探すよりもよほど効率的で確実。引用元は別の人へつなぐバトンのようなものなんだと改めて実感する。
 ふと、僕への情報提供を「俺に何かしてくれた人からの恩送り」と言った仁科さんが思い浮かんだ。二人は意外と似た者同士なのかもしれない。

 新規性。既存のものを知らないで、何が新しいかは判断できない。調べることが先というのは正しかった。
 資料が揃っていくと、安心して書くことと「草枕」の世界に集中できる。

 昔々のそのまた昔、美しい娘が恋をした。けれども親は、男と添い遂げたいという娘の願いを聞き入れてくれない。娘は泣いて、泣いて、男を追って、叶わぬ恋を嘆いて、池に身を投げた。娘が忍ばせていた一枚の鏡にちなんで、その池の名は「鏡が池」という。
 美しい娘の鏡は、一体何を映していたのだろう。
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