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第十章 扉が閉じて別の扉が開く

271 あなたが一番の贈りもの ②

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 黒のパンプスを脱ぎ、脱衣所で急いでルームウェアに着替え、扉を開けた。
 室内は暗い。でも、キャンドルの灯が優しく揺れていて温かみを感じる。

「去年、最初からキャンドルがいいって言ってたから」
「ありがとう……」

 足元に気をつけてそっと先へ進む。テーブルにはフライドチキンとパンとサラダと瓶とグラスが用意されていた。

「すごーい!」
「結局、全部買って済ませちゃった。ケーキは冷蔵庫に冷やしてるよ」
「シャンメリー!」
「去年、若葉ちゃんが好きだって言ってたから。これは絶対外せないと思った」

 新くんの、私のお気に入りを尊重してくれるところが、とても好き。
 私達はのんびり食事を楽しんだ。温め直してくれたフライドチキンは衣がサクッと香ばしくて肉汁がジューシー。シャンメリーはシュワシュワした泡がほんのり甘くてとてもおいしかった。生クリームのケーキも久しぶりに食べたなあ。
 毎日よれよれのくたくただった私にとって、夢のように素敵な空間。

「お風呂、ゆっくり浸かっておいで」
「はあい」

 そっと浴室の扉を開くと、温かくも爽やかな香りが私を包んだ。

「柚子の香り……」

 入浴剤をどうするか訊ねられたけど、私は本当にくたびれていて選ぶことができなかったので、これも新くんにお任せした。発表の準備にいっぱいいっぱいで、今年の冬至はかぼちゃを食べなかったし、柚子湯にも入らなかった。季節の移ろいを忘れつつあった私に、新くんがそっと安らぎを差し出してくれたみたいで、なんだかとっても沁みる。

「新くんありがとう。柚子湯、嬉しかった」
「そう? よかった。僕もお風呂入ってくるね。先に眠っていていいよ」
「うん……」

 新くんが浴室へ向かってすぐ、私はベッドに潜り込んだ。お布団から新くんの匂いがして、とても落ち着く。ああ、私、新くんの匂い、好きだなあ。

 ぼんやり過ごすうちに結構な時間が経ってしまったんだろう。新くんの足音がしたので、思わず身を起こした。

「あれ? 若葉ちゃん、起きてたの?」
「うん……」

 ベッドに入ってきた新くんにそっと抱きつく。お風呂上がりだから温かくて、なんだかほっとした。新くんは優しく抱きしめ返してくれる。大きな身体に包み込まれ、守られていることを実感して、私はとても安心した。
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