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第十章 扉が閉じて別の扉が開く

270 あなたが一番の贈りもの ①

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  学会終了後、三浦先生は私を大学まで車で送ってくださった。
 三浦先生の運転は上手で、動きがとても滑らかだ。無音の車内。睡魔に襲われ、思わずあくびをしてしまう。

「も、申し訳ありません!」

 私を送るために運転してくださっているのに、眠りそうになるなんて失礼だ。

「眠っても大丈夫ですよ。昨晩は遅かったんですか?」
「原稿と資料にミスがないか、最終チェックに必死で、ほとんど……」
「堂々と発表していたので、全然そんな風には見えませんでしたよ。ただ、無理をするのはよくないので、前日はほどほどにして眠ってくださいね」

 三浦先生の私を気遣った優しいお言葉。でも、今の私には「発表前々日までにきちんと完成させなければならない」という準備不足に対する戒めに聞こえてしまう。疲れるとネガティブな受け取り方をしてしまって、駄目だ。

「三浦先生はよく眠られましたか?」
「学会準備は終えていましたけど、僕はサンタになるという大役を果たさなければなりませんでしたから、全く気が抜けませんでしたよ」
「小さい子は急に起きたりしますもんね」
「普段と違う雰囲気に興奮したのか、なかなか眠ってくれなくて。今夜はゆっくり過ごします」

 よいお年をとお伝えし、私はそのまま新くんの部屋へと向かう。

 新くんに学会の日程を伝えたところ、「今年のクリスマスは僕が全部準備するよ」と申し出てくれたので、ありがたくお任せすることにした。クリスマスイヴは楽しむどころじゃないから、二十五日に発表を終えたら新くんのお部屋へ向かって、そのままお泊り。「外でごはん食べる?」と新くんから訊ねられたけど、私は首を横に振った。新くんとおうちでのんびり過ごしたかったのだ。

「去年のクリスマスイヴ、楽しかったなあ……」

 二人で食べるお料理はおいしくて、キャンドルの灯が綺麗で、とても優しく幸せに愛されて。温かくて、本当に素敵な一日だった。道すがら、そんなことを思い出す。
 チャイムを鳴らすと、新くんはしばらくしてドアを開けてくれた。

「若葉ちゃん、おかえり」
「ただいま」

 笑顔でお出迎えされて、なんだか無性にきゅんとする。私は新くんの元に帰ってきたんだ。

「おつかれさま。若葉ちゃんのスーツ姿、初めて見た」
「学会終わってそのまま来ちゃった。着替え、新くんの部屋に置かせてもらってるし……」

 少しでも早く会いたかったから。そんな言葉がなんだか口に出せなくて思わず抱きつくと、新くんはそっと抱きしめ返してくれた。私の頭の上で優しく笑う声が聞こえる。すごく落ち着く。

「スーツ、皺がついちゃうよ」
「うん……。着替えるね」
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