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第十章 扉が閉じて別の扉が開く
265 過ぎ去りし禍いを歎くは ①
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たまたま授業の空き時間が似ていたので、今年度の後期は理奈ちゃんと一緒に過ごすことが増えていた。同じ就職組ということもあって、話す内容は自然と現実的なことが多くなっていく。
「業界選択がすごく難しくて」
「若葉ちゃん、とってもおしゃれだから、アパレル業界もいいんじゃない?」
「うーん……」
実は真っ先に私の頭に浮かんだのも、アパレル業界だった。
この不景気でアパレル業界の業績は下がっている。それは、私の好きなメーカーがいくつか終売になったことからも実感していた。不安はあるけどなんにせよ確実なことはないし、好きな分野ならがんばれるかなと、最初は楽観的に考えようとしていたのだけれど。
アパレル業界を候補から外した決定打は、ある日大学の食堂で耳にした、全く知らない人達の会話だ。
『その服、すっごく可愛いー!』
『いいでしょ? ネットで買ったんだー』
『ネットで服を買うのって難しくない? 私、センスないからさあ』
『大丈夫! 私も、お店で店員さんに見てもらったよ!』
『え?』
『試着の時に品番確かめて、「もう少し考えてみます」って言ってお店を出て、ネットで最安値のところ見つけて買ったんだ! かなり安くついた!』
『わー! かしこーい!』
その会話を聞いて、私はとっても嫌な気分になった。
私も試着して買わないことはある。それは、サイズが合わなかったり、思っていたイメージと違っていたからで、買う気がない時だ。しばらく時間を置いて、やっぱり欲しいなと思った時は、そのお店に戻って買う。
店員さんの見立ては技術だ。技術を搾取することを、私は賢いとは言いたくない。
一生懸命やっても報われないことはある。自分の提案を相手から気に入ってもらえないのも仕方ないと思う。でも、こういう類の報われなさは、私には耐え難い気がした。
「好きなことから分野を絞ろうとすると、なんだか行き詰っちゃって……」
「そうなんだ。でも、みんながみんな好きなことを仕事にしている訳ではないし、できることから考えてもいいかも」
「できること……」
私にできることってなんだろうか。
英語は好きだけど、現時点では翻訳や通訳ができるほどのレベルではない。タイピングはそこそこ速いと思うけど、それ以外のスキルはほとんどない。とっさの機転や処理速度が重視される作業は向いていないと、これまでのバイトで実感している。
できることの少ない私が、条件をつけるなんて、贅沢じゃないかな。そんな思いを消すことができなくて、でも明らかに向いていない職業を目指すのも違う気がして、私はどう動けばいいのか、わからないでいる。
「業界選択がすごく難しくて」
「若葉ちゃん、とってもおしゃれだから、アパレル業界もいいんじゃない?」
「うーん……」
実は真っ先に私の頭に浮かんだのも、アパレル業界だった。
この不景気でアパレル業界の業績は下がっている。それは、私の好きなメーカーがいくつか終売になったことからも実感していた。不安はあるけどなんにせよ確実なことはないし、好きな分野ならがんばれるかなと、最初は楽観的に考えようとしていたのだけれど。
アパレル業界を候補から外した決定打は、ある日大学の食堂で耳にした、全く知らない人達の会話だ。
『その服、すっごく可愛いー!』
『いいでしょ? ネットで買ったんだー』
『ネットで服を買うのって難しくない? 私、センスないからさあ』
『大丈夫! 私も、お店で店員さんに見てもらったよ!』
『え?』
『試着の時に品番確かめて、「もう少し考えてみます」って言ってお店を出て、ネットで最安値のところ見つけて買ったんだ! かなり安くついた!』
『わー! かしこーい!』
その会話を聞いて、私はとっても嫌な気分になった。
私も試着して買わないことはある。それは、サイズが合わなかったり、思っていたイメージと違っていたからで、買う気がない時だ。しばらく時間を置いて、やっぱり欲しいなと思った時は、そのお店に戻って買う。
店員さんの見立ては技術だ。技術を搾取することを、私は賢いとは言いたくない。
一生懸命やっても報われないことはある。自分の提案を相手から気に入ってもらえないのも仕方ないと思う。でも、こういう類の報われなさは、私には耐え難い気がした。
「好きなことから分野を絞ろうとすると、なんだか行き詰っちゃって……」
「そうなんだ。でも、みんながみんな好きなことを仕事にしている訳ではないし、できることから考えてもいいかも」
「できること……」
私にできることってなんだろうか。
英語は好きだけど、現時点では翻訳や通訳ができるほどのレベルではない。タイピングはそこそこ速いと思うけど、それ以外のスキルはほとんどない。とっさの機転や処理速度が重視される作業は向いていないと、これまでのバイトで実感している。
できることの少ない私が、条件をつけるなんて、贅沢じゃないかな。そんな思いを消すことができなくて、でも明らかに向いていない職業を目指すのも違う気がして、私はどう動けばいいのか、わからないでいる。
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