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第九章 青天にいかずちが落ちる

253 「やめるはひるのつき」 ④

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 とりあえず、ぐるぐると考えていただけの時よりは、前へ進んでいる実感がある。一気に変えることはできないから、一つずつ目の前のことを片づけていくしかない。

 宗岡先生の研究室を出たその足で、今度は三浦先生の研究室をノックする。
 昨日、研究室におじゃましてもよろしいでしょうかとメールで連絡を取ったら、「明日の三限目ならば在室しています」というお返事がすぐにきた。仕事のできる人は、返事が早い。

「どうぞ」
「失礼します」

 扉を開けると、小さく流れているピアノの音。バッハ、のような気がするけど、バッハにしてはあまりきっちりしていない気もする。僕はクラシックにそこまで詳しくない。家で流れていたのを耳にした程度だ。

「渋沢くん。先日はバイトを引き受けてくださり、本当にありがとうございました。とても助かりました」
「こちらこそありがとうございました。興味深かったです」
「今日はどうなさいました?」
「はい。あの時、気になった本があったので、よろしければお借りしたいと思ったんです」
「どの本ですか?」
「『鏡の歴史』です」
「ああ。今は使っていないので、持っていっていいですよ」

 促されたので、棚を探す。僕はその本を直接見ていない。でも、たしか、「天文対話」上下巻の隣にあったはず。「天文対話」は文庫本だったから見つけやすい。サイズの違う本が並んでいるメリットは、そんなところにあるかもしれない。

 見つけるのに手間取ったのは、棚の並びが少し変わっていたからだ。「天文対話」と「鏡の歴史」の間には別の文庫本があった。「パロマーの巨人望遠鏡」上下巻。並びの変更にむしろ納得した。天文と鏡がどうつながるのか、今ひとつぴんときていなかったから。
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