上 下
252 / 352
第九章 青天にいかずちが落ちる

251 「やめるはひるのつき」 ②

しおりを挟む
 卒論に関して、腹をくくって動くことにした。手を打つのは一刻も早いに越したことはない。

 アポイントメールに返事は来なかったけれど、僕は駄目元で研究室のドアを叩く。ゼミ担当の宗岡むねおか先生はそこまで厳しい方ではないので、いきなりの訪問でも許してくれそうな気がした。

「どうぞ」
「失礼します」

 ドアを開けると、宗岡先生と目が合った。顔を上げてはくれたけど、パソコンで文章は打ち続けている。相変わらず自由な人だ。

「なんか用?」
「今、お時間よろしいでしょうか」

 宗岡先生はパソコンに目を戻し、カチャカチャとマウスを操作した。

「ああ、ごめんごめん。メールに気づいてなかった」

 全然悪びれない口調で「一区切りしたらそっちに行くから、待たせて悪いけどとりあえず座って」と促されたので、ソファに腰掛ける。ぼんやり待っている間、どう話を切り出そうか、僕は脳内でシミュレーションを続けていた。いくら厳しくないとはいえ先生なのだから、失礼のないよう穏便にことを済ませたい。
 ようやくやってきた宗岡先生に「お忙しいところ急におうかがいして、大変申し訳」と言いかけた瞬間、「御託はいいから端的に言って」とあっさり返されてしまったけれど。

「なるほど。卒論の題材を変更したい」
「……はい」
「ふうん。じゃあ何で書きたい訳?」
「できれば『草枕』にしたいと思っています」

 考えていることをおそるおそるお伝えした。ずっと漱石の「こころ」で卒論を書くということで話を進めていたので、ここで変更を申し出るのはとても勇気がいる。でも、やはり自分が好きな作品で書きたいと思ったのだ。後悔したくない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

なし崩しの夜

春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。 さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。 彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。 信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。 つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

処理中です...