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第九章 青天にいかずちが落ちる

249 世界人類ネコと和解せよ ⑤

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 帰宅後、僕は姉に電話を掛けた。メールやSNSでメッセージを打つには、話が複雑すぎる気がして。

「もしもし」
「何?」
「今、電話大丈夫?」
「無理なら出ない」

 だから、どうして、この人はこう喧嘩腰なんだ。

「仁科さんと無事お会いできたので、お礼を言おうと思って」
「へえ、会ったんだ。どうだった?」
「どうって……」
「爽やかな笑顔の好青年だったでしょ?」
「…………いや……その……」

 僕が言い淀むと、姉はびっくりした調子で続ける。

「え! ちょっと、まさか、腹黒モードだったの?」
「腹黒というか……悪魔?」

 僕がそう言うと、姉は大笑いした。

「終が初見で本性出すなんて。新、あんた、相当気に入られたね!」
「はあ……」
「いい話聞けたんじゃない?」
「いい話……」

 あれを「いい話」とまとめるには、僕のキャパシティは狭すぎるけれど。

「『終』ってお名前の意味をうかがった」
「……は? なにそれ!」

 あれ? なんか怒って……?

「私も聞いたことないのに! なんで新なんかに!」

 そんなの僕が知りたい。いや、知らなくていい。面倒。



 それからもたまに仁科さんの方から誘ってくるので、会うようになった。笑いながら「初対面で重い話をしてくる人間は地雷だよねー」とか、返しに困るようなことを言うのはやめてください。

「仁科さん、ほんと、顔だけ見てたら、爽やかで感じがいいですよね……」
「悪魔は天使みたいな顔をしているから、みんな騙されるし、タチが悪いんだよー」

 にこにこと笑う地獄からの使者がここにいる。

 仁科さんが姉と暮らしていると知った時、僕は凍りついた。
 あの、あれの、あの人の、恋人。勇者だし、猛者だし、山師だし、曲者だし、ゲテモノ食いだし、一筋縄でいかないのも、すごく納得。
 どうしても気になったので聞いてみた。

「なぜ、姉と付き合おうと思ったんですか?」
「タフだから。あと、ほら、『平服でお越しください』みたいにどうとでも取れる言葉や、『勉強なんかしなくていい』って言われたのに九十七点だったら殴られるとか、そういう相手の気分次第の世界で俺は生きてきたから、椿の裏のなさは信頼できると思った」

 左様ですか。

「俺は親を永遠に許さない。でも、人間関係そのものは、諦めなくてもいいんじゃないかと思って。『神と和解せよ』は無理でも、『ネコと和解せよ』はアリかなって」

 なんだか全然意味がわからないけれど、わからなくていいです。仁科さんを見ると、とても魅力的な笑みを浮かべていた。やっぱり少し意地の悪さを感じさせるのがアレだけど。
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