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第九章 青天にいかずちが落ちる

243 愛の反対は無関心である ③

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「新! 悪いな!」
「全然。行先一緒だし」

 今日は向井の授業が休講になり、塾のシフトもかぶっていたので、一緒に行くことにした。向井が助手席のシートベルトを締めている間に、ラジオをつける。「トークの参考になるし、ネタも仕入れられるから、ラジオつけてもらってもいいか?」と申し訳なさそうに言われてからそうすることにしている。これは結構最近のことで、向井は意外と遠慮がちな人間なんだと改めて思った。

 向井に彼女ができた。
 お相手の藤田さんとは教職の授業で何回か話した記憶があり、「真面目で控えめに見えるけど、ディスカッションでは意見をきちんと言うし、着眼点も結構鋭い女の子だな」という印象を持った。向井と付き合い始めてから何度か会ったけど、さりげなく気配りをしてくれるいい子だと思う。若葉ちゃんも素敵なお友達が増えたととても楽しそうだったので、僕も嬉しい。

 なんとなく、向井はもっと元気なタイプの女の子を好むような気がしていた。例えば、片岡が今付き合っている南部さんみたいな。だから正直ちょっと意外だったけれども、二人が並んでいる姿はなんだかしっくりくる。藤田さんは恋する女の子の瞳をしているし、向井のまなざしも優しい。

 藤田さんと付き合い始めてからの向井は、雰囲気がやわらかくなった気がする。リラックスしている感じ。向井はいつも楽しげでオープンなように見せかけて、なんとなく、本当は常に必要以上に神経を張り詰めて生きているような気がしていた。心を許せる相手と付き合えてよかったなと思う。

 リラックスしている感じ。
 なんとなく、最近片岡くんも以前よりのんびりした空気を纏うようになった気がする。成績も順調に伸びていて、なによりだ。
 片岡くんと向井はすっかり打ち解けて、僕をダシにしなくても、よく話すようになっていた。

「渋沢栄一と津田梅子と北里柴三郎の共通点は?」
「新紙幣の肖像ですよね」
「正解。でも、それ以外にもあるよ」
「なんですか?」
「教育者で大学の設立に大きく関わっている。津田梅子と北里柴三郎はそれぞれ名字にちなんだ名前の大学がある」
「渋沢栄一は実業家ですよね?」
「渋沢栄一は確かに実業家としての方が有名だよね。いくつかの大学の設立にすごく尽力してるんだよ。そうだよな? 新しい一万円札の渋沢?」
「いきなり僕をダシにするな」
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