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第九章 青天にいかずちが落ちる
240 素敵な靴は素敵な場所へ ⑥
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買い物を終えたので、カフェで少し休憩することにした。
「私、こういうおしゃれなお店全然知らないし、一人で入る勇気出ないから嬉しいなあ!」
「おいしいお店見つけるのが好きなの! またぜひ付き合って!」
「喜んで!」
二人で笑いあっていると、理奈ちゃんのスマホが鳴った。どうぞ、と言うと、彼女は遠慮がちに通話を開始する。なんだか声が嬉しそう。向井くんかな? 理奈ちゃんは一旦受話器を離し、私に問いかけてきた。
「向井くんが夕飯一緒に食べに行かないかって。若葉ちゃんの都合はどう?」
新くんは今日バイトのはず。ということは、私が一緒だと、付き合いたての二人の邪魔をすることになるのでは?
「ごめんね。ゼミの予習があるし、二人で楽しんできて!」
私が首を振りながらそう答えると、理奈ちゃんは向井くんにそのまま伝えてくれた。
カフェを出て、もうすぐ理奈ちゃんとはお別れ。駅ビルに向かっている途中、ショウウィンドウに飾られた黒いパンプスが目に入った。看板を見ると、入ったことはないけれど名前は知っている老舗の靴屋さん。
「どうかした?」
シンプルだけどカッティングが綺麗で、いい革を使っているからなんだか大人の雰囲気。合わせやすそうだし、服を引き立ててくれる気がする。でも、今日の購入予定はスーツだけ。靴を買うお金はなかった。
「あの靴が気になるんだけど、手持ちがなくて」
「いざとなったら私が立て替えるし、試しに履いてみたら?」
理奈ちゃんがそう言ってくれたので、店員さんに声を掛け、試着させてもらうことにする。足に吸いつくようで、とても歩きやすい。私は足の幅が狭いから合う靴が少なくて、デザインを気に入っても泣く泣く諦めることが多いのだ。
予想外の出費ではあるけど、こういう出会いはなかなかないから買うことにした。幸いそのお店では銀行のキャッシュカードから支払いができるシステムを導入していたので、理奈ちゃんからお金を借りずに済み、ほっとする。
店員さんにおまとめしましょうかと言われたので、スーツの入ったショップバッグを渡す。戻ってきたショップバッグは、このお店のものに変わっていた。持ち手と袋の紙は上質な素材でとても丈夫そう。粋なデザインだから、持っていて心ときめく。さすが老舗。
「今日は一日ありがとう! 若葉ちゃんのおかげで、すごく有意義に過ごせたし楽しかった!」
「ううん! 私こそとっても助かったの! ありがとう!」
笑顔の理奈ちゃんと別れた。向井くんとのデート、素敵なものになるといいなあ。
手元のショップバッグを眺める。スーツとシャツだけ持っていた時はなんだか心もとなかったけれど、今の気分は少し前向きだ。
私はイタリアのことわざを思い出していた。
素敵な靴は素敵な場所へ連れて行ってくれる。
「私、こういうおしゃれなお店全然知らないし、一人で入る勇気出ないから嬉しいなあ!」
「おいしいお店見つけるのが好きなの! またぜひ付き合って!」
「喜んで!」
二人で笑いあっていると、理奈ちゃんのスマホが鳴った。どうぞ、と言うと、彼女は遠慮がちに通話を開始する。なんだか声が嬉しそう。向井くんかな? 理奈ちゃんは一旦受話器を離し、私に問いかけてきた。
「向井くんが夕飯一緒に食べに行かないかって。若葉ちゃんの都合はどう?」
新くんは今日バイトのはず。ということは、私が一緒だと、付き合いたての二人の邪魔をすることになるのでは?
「ごめんね。ゼミの予習があるし、二人で楽しんできて!」
私が首を振りながらそう答えると、理奈ちゃんは向井くんにそのまま伝えてくれた。
カフェを出て、もうすぐ理奈ちゃんとはお別れ。駅ビルに向かっている途中、ショウウィンドウに飾られた黒いパンプスが目に入った。看板を見ると、入ったことはないけれど名前は知っている老舗の靴屋さん。
「どうかした?」
シンプルだけどカッティングが綺麗で、いい革を使っているからなんだか大人の雰囲気。合わせやすそうだし、服を引き立ててくれる気がする。でも、今日の購入予定はスーツだけ。靴を買うお金はなかった。
「あの靴が気になるんだけど、手持ちがなくて」
「いざとなったら私が立て替えるし、試しに履いてみたら?」
理奈ちゃんがそう言ってくれたので、店員さんに声を掛け、試着させてもらうことにする。足に吸いつくようで、とても歩きやすい。私は足の幅が狭いから合う靴が少なくて、デザインを気に入っても泣く泣く諦めることが多いのだ。
予想外の出費ではあるけど、こういう出会いはなかなかないから買うことにした。幸いそのお店では銀行のキャッシュカードから支払いができるシステムを導入していたので、理奈ちゃんからお金を借りずに済み、ほっとする。
店員さんにおまとめしましょうかと言われたので、スーツの入ったショップバッグを渡す。戻ってきたショップバッグは、このお店のものに変わっていた。持ち手と袋の紙は上質な素材でとても丈夫そう。粋なデザインだから、持っていて心ときめく。さすが老舗。
「今日は一日ありがとう! 若葉ちゃんのおかげで、すごく有意義に過ごせたし楽しかった!」
「ううん! 私こそとっても助かったの! ありがとう!」
笑顔の理奈ちゃんと別れた。向井くんとのデート、素敵なものになるといいなあ。
手元のショップバッグを眺める。スーツとシャツだけ持っていた時はなんだか心もとなかったけれど、今の気分は少し前向きだ。
私はイタリアのことわざを思い出していた。
素敵な靴は素敵な場所へ連れて行ってくれる。
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