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第九章 青天にいかずちが落ちる

239 素敵な靴は素敵な場所へ ⑤

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「若葉ちゃんありがとう! すごく買い方の勉強になってよかった! 次は若葉ちゃんのスーツを買いに行こうよ!」
「うん……」

 私の気が乗らない様子を察してくれたのだろう、理奈ちゃんが少し心配そうに語りかけてきた。

「正直、不思議だったの。スーツは売り場があるし、若葉ちゃんはセンスがいいから、私が一緒に行く必要なんかないんじゃないかなって」
「……そんなことない。理奈ちゃんが付き合ってくれて、すごく心強いの」
「そう?」
「うん」

 理奈ちゃんが優しく微笑みかけてくれたので、少し安心する。
 私にとってスーツはきちんとした常識的な世界の象徴で、将来に迷っている今の私には選べないような気がして、なんだか怖かった。少なくとも学会用に必要なのに、こんな気持ちはきっとおかしいのだと思うけれど。

 スーツ売り場に着いたので、理奈ちゃんと一緒に見る。といっても、スーツとシャツをサイズで機械的に選ぶだけだけど。試着室に入り、サクサク着替え、鏡を見た。
 普段黒を着ることはないから、鏡の前の私はなんだか別人のように見える。何も考えず、機械的にチェックをする。きちんと腕が上がるし、変な皺も出ていない。特にお直しはしなくてもいいはず。そう思うけど、やっぱり客観的な意見が欲しくなって、試着室を出た。

「わあ! 若葉ちゃん、スタイルがいいから、何を着ても似合うね!」

 私の姿を見るなり、理奈ちゃんがそう言ってくれたから、ほっとしたし腹をくくろうと思った。
 大人にならなきゃ。いつまでも夢ばかり見てはいられない。
 自分で食べていくために、新くんと一緒にいるために、きちんと就職活動しよう。
 私はスーツ一着とシンプルなシャツを二枚購入した。受け取ったショップバッグの造りがちゃちで、なんだか心もとない。
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