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第九章 青天にいかずちが落ちる

232 ああ、素晴らしい新世界 ⑦

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 空くんと別れた後、私達はお兄ちゃんが予約してくれたギリシャ料理のお店にごはんを食べに行った。お店の名前はタベルナ。大衆食堂を意味するその名の通り、アットホームな雰囲気。

 しばらく待っていると、前菜としてタラモサラタが出された。

「タラコとじゃがいもでタラモサラタ!」
「タラモはギリシャ語で魚卵のことだから」

 玲美ちゃんから淡々とツッコまれてしまった。

「覚えやすくていいじゃん、だじゃれ。食堂なのにタベルナとかさあ」
「ギリシャ料理、初めて食べるので楽しみです」
「ボーダーコリーはうまそうに食べてくれるから、食べさせがいがある」

 お兄ちゃんが新くんに笑いかける。新くんは好き嫌いなくなんでもおいしそうに食べてくれるから、確かに嬉しいよね。

「前、一緒に焼肉を食べに行った時、ボーダーコリーは自分を焼肉用眼鏡だと思ってくれって言ってくれた。そういう風に適切に助けてもらえるのは、とても助かる」

 新くんがお兄ちゃんを思いやった言葉を掛けてくれていたことがとっても嬉しくて、私は反射的に口を開いていた。

「ぼくが目になろう!」
「若葉ちゃん、それ、意味違うよ」

 新くんはくすくす笑いながら訂正を入れるけど、なんだか嬉しそう。

「私、『スイミー』好きだし、今日の格好がお魚っぽいって言われたから、つい……」
「国語の教科書に出てきた話って、結構記憶に残ってるもんだよな。俺も『スイミー』はヤスみたいだなって思ったから覚えてる」
「そういえばお兄ちゃん、エミリーちゃんのお誕生日プレゼントでも、アーノルド・ローベルの『おてがみ』が入った絵本選んでたね!」

 どちらのお話も、私はとっても好き。学校で習う前に、お父さんが買ってくれた絵本で読んでいた。仲間外れにされていたスイミーがみんなの役に立てたことがとっても嬉しかったし、かたつむりがお手紙を届ける大役を無事に果たしたことにもほっとした。がまくんとかえるくんのお互いを大切に思い合う関係も、とっても素敵だなあと思う。

「エミリーちゃん?」

 玲美ちゃんが不思議そうな表情を浮かべる。あ。また、説明するの忘れちゃった。私は夢中になると、つい、前提を飛ばして喋ってしまう。

「ご近所のマクレガーさんってお宅のお嬢さんで、大和くんの好……とってもなかよしな女の子なの!」
「大和くん……? ああ、若葉の弟さん」
「そう! お兄ちゃんと私で、二人をずっと見守ってて!」
「気づかれないと、届くもんも届かないよなあ」

 お兄ちゃんがぼそりとつぶやくと、玲美ちゃんがちょっと困ったような顔をした気がした。

「玲美ちゃん! 今度は大和くんも一緒に会ってほしい! 大和くん、寂しがり屋だから、仲間外れにされたの悲しんじゃう!」
「別に仲間外れとかじゃないだろ」
「そうだけど……。私はお姉さんだもの! 大和くんを不安にさせたくないし、喜んでほしい! 大和くん、玲美ちゃんに会えたら、絶対喜ぶもの! お兄ちゃんがとっても幸せな顔してるから!」

 私が勢い込んで言うと、玲美ちゃんは目を丸くした。しばらく黙っているので少しどきどきする。

「本当に、北村きょうだいは……」

 よくわからないけれど、玲美ちゃんが大笑いしてくれたのでよしとする。
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