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第九章 青天にいかずちが落ちる

229 ああ、素晴らしい新世界 ④

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 受付を経て、席に着く。お兄ちゃん、玲美ちゃん、私、新くんの並び。プログラムをパラパラとめくる。空くんがエントリーしたのは上から二番目のレベルなのだそう。

「一番上のレベルでもおかしくないはずなのに」
「そうなの?」
「空、音大行って、卒業後は留学する予定だし」
「すごいね!」

 思わず声を上げてしまう。空くんは高校二年生なのに、もう将来をきっちり決めてるんだ。

 ピアノもバレエも、発表会は何度か経験したけれど、結局コンクールは一度も挑戦しなかった。発表会も緊張感はあったけど、ここまで張り詰めた空気ではなかった気がする。
 芸術に絶対的な優劣はない、それはきっと正しい。評価者の支持する傾向や好みに左右される部分も、おそらくあるだろうし。
 でも、それならば、なぜコンクールが存在するの?
 競い合うこと、高みを目指すことで磨かれる技術は、おそらくあるのだ。

 空くんの出番が来た。たぶん私と同じくらいの身長で、少し茶色い髪と顔立ちは玲美ちゃんと似ているけれど、もう少し垂れ目。にこにこした笑顔が可愛らしい印象。玲美ちゃんはキャットラインがとてもよく似合うけれど、素顔はもっと甘い顔立ちなのかもしれない。女の子はお化粧で変わる。

 空くんは最初の一音で聴衆を惹きつけた。華やかできらめきを感じさせるドラマティックな音。ああ、これは天性のものだ。空くんは何かが乗り移ったかのように弾いていく。小柄なはずなのに、ダイナミックな動きに圧倒される。
 ただ、私の心を一番とらえたのは、おそらく彼が得意な曲ではなかった。
 ベートーヴェンのピアノソナタ第十七番、通称テンペストの第三楽章。抑えた音に込められた情念のようなものに、なんだかひどく心をかき乱された。まさにテンペストだ。
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