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第八章 人の数だけ気持ちがある

213 さらばセンメルヴェイス ④

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 昼休みを終え、再び三浦先生の研究室に戻る。
 しばらくは順調に作業を進めていたものの、だんだん集中力が途切れがちになる。昼食後だし、ある程度は仕方ないのかもしれないが。

「登録番号3050、007、370」
「番号3050、007、370」
「天文対話 上巻。ガリレオ・ガリレイ」
「……下巻の番号は3050、007、388で合ってる?」
「……3050、007、388。合ってる」

 ガリレオ・ガリレイ。地動説。それでも地球は回っている。
 もちろん当時のキリスト教の持つ力が絶大なものだったことは知っている。
 でも、報われない偉人の話を聞くたびに、思ってしまうのだ。どうして内容で判断してくれないんだ、と。

「登録番号3012、174、318」
「番号3012、174、318」
「鏡の歴史。マーク・ペンダーグラスト」
「合ってる」

 鏡が映し出すものは。正反対のものなのか、それとも実は同じものなのか。光。反射。

 その日のディスカッションのテーマは「砂漠で生き延びるには」だった。
 コンセンサスゲームというらしい。全員の合意コンセンサスに基づいて決める。
 飛行機が砂漠に墜落し、十二個のアイテムが残った。全員同じ服装で、纏っているのは半袖シャツ、ズボン、靴下、タウンシューズ。生き延びるためにアイテムに優先順位をつけろ、という課題。

 アイテムは以下の十二個。
 懐中電灯、ガラス瓶に入ったタブレットの食塩1000錠、地域の航空写真の地図、一人1リットルの水、大きいビニールの雨具、「食用に適する砂漠の動物」という本、方位磁針、一人一着のコート、弾薬が装填された45口径のピストル、化粧用の鏡、赤と白のパラシュート、2リットルのウォッカ。

 この時のメンバーはみんなやる気があり、積極的で、たくさんの意見が出た。

『化粧なんかしないし、鏡が一番いらないよね』
『もう地面に降りてるんだし、パラシュートなんか使えないよね』
『生き延びるんだから、人間が生きていくために必要なものを残すべきでしょう』
『水と塩だよね』
『ウォッカは燃料に使ったらどうかな。ピストルで仕留めた動物を焼いて食べる! あと、水を蒸留させてみたりしたいよね。ビニールの雨具に受けたりしてさ』
『そんなにうまくいくかなあ?』
『まあ、さすがに夢見すぎとは思うけど。でも、小学生の頃、こういうサバイバルみたいなの、ちょっと憧れなかった?』

 笑いながら和気あいあいと話が進んでいる。進んだらまずい方向に。
 学習漫画で読んだので、俺は答を知っていた。全然違う。これは短時間勝負なんだ。いかに早く救助部隊に気づいてもらえるか。砂漠で長時間生きられはしない。なるべく体力を消耗しないようにすべきだ。しかも軽装だから直射日光を避けられない。せめてスーツならまだましだったのに。

『一番重要なものは鏡だ』

 俺が意見を述べたところ、場がしんと静まり返った。気まずくはあるが、聞いてもらうのにちょうどいいと開き直って続ける。

『光の反射を利用して救助部隊へ信号を送る。次がコート。軽装すぎるから直射日光を避ける。水はその次あたりだと思う。懐中電灯は、夜、救助部隊への信号として使ったらいい』
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