【R18】人の好みは説明できない

第八章 人の数だけ気持ちがある

205 狭き門にあるマシュマロ ⑥

　俺と片岡の最大の違いは、言葉の重みにあるのだと思う。
　南部さんに対して、俺は好意を示していた。でも、「これからも教職の授業で一緒だから、負担にならないようにさりげなく」と意識し過ぎたのが裏目に出て、あまり本気では捉えてもらえなかった気がする。
　片岡は、何事も冗談で言っているようには聞こえないから、本気が届きやすい。

　学者、役者、易者、芸者、医者。「教師は五者たれ」なんて言葉がある。
　膨大な知識を身につけ、相手を引きつけ魅了し、不安を取り除き、楽しみの場に変え、相手の性格を見抜くべし、ということ。
　俺はたぶん、楽しみの場に変える力が一番髙いのだろう。芸者。タレント。

　タレントは元々、重さや貨幣の単位だ。聖書では貨幣として登場する言葉。転じて、「才能」や「価値のあるもの」という意味を持つようになった。俺にはたぶん、教員のタレントがある。

　教員としてなら、生徒に気負わせずプレッシャーをかけないことは、利点になりうる。生徒も油断して素が出やすくなるから、観察もしやすい。
　でも、恋愛は、どこかはっきりさせないといけない部分がある。自分にとってあなたは特別な存在なのだと。

　俺は、中学時代も高校時代も、生きるので精一杯で、そつなくやり過ごすことに重点を置きすぎてきたから、そこらへんの匙加減がわかっていない。恋愛のタレントは、ないかもしれない。