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第八章 人の数だけ気持ちがある

201 狭き門にあるマシュマロ ②

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 とかくに人の世は住みにくい。
 なんとかなってきたのは、俺の運がよかったからだ。それに尽きる。

 中学三年生の俺は、工業高校へ進学しようとしていた。早く働きたいから手に職。偏差値もそう高くないから、勉強しなくても行ける。その分、中学時代の残りは家のことをいろいろやればいいし、高校を卒業したらすぐ働ける。そのように考えたのだ。

 個人面談で話したところ、担任は俺に訊ねてきた。

「向井くん、君は本当に工業高校へ行きたいのか?」
「はい」
「機械が好き?」
「いいえ。特には」
「興味があるから行きたい、という訳ではないんだね」
「行きたいとか行きたくないとかじゃなくて、将来のことを考えたら、これが最善手かなーと思ったんです」

 現在のことを考えても、そう。下に妹と弟がいる。無駄な金は使えない。

「向井くん自身が、純粋に工業高校に行きたいというのなら、これでおしまいにしようと思っていたんだが」

 担任は反対だと言ってきた。俺の成績は学年上位3%であること、生涯賃金の違いを考えると大学へ進学した方がよく、可能性を捨てるのは非常にもったいないと言われた。

「そう言われても、家にはそんな金、ないですし……」

 ここで下手に取り繕わず、正直に言ったのが、運命の分かれ目だった気がする。
 担任は各種奨学金や成績上位者の学費免除がある高校を教えてくれた。中学生の俺は、そんなにいろいろな手段があるなんて、知らなかった。
 それからも担任と相談しつつ、結局、成績上位者の学費免除がある私立高校に進学した。自宅から徒歩で通えたのもあって。

 中学時代の経験を踏まえ、高校に入学してすぐ、俺は自分から担任に相談をした。大学に進学したい。実家の経済状況では、国公立だろうけれど、今は国公立も予備校に通える人間が圧倒的に有利だ。浪人はできないが、どうすればいいのかわからない。自宅にパソコンがなく、自分で調べるにも限界があるので、教えてほしい、と。今ならスマホで調べるけれど、当時俺が持っていたのは安いガラケーだったし、検索技術も大してなかった。

 俺はやはり運がよかった。高校時代の担任も親切だった。国公立の学費がずいぶん上がっていることをまず教えてくれ、受験そのものは指定校推薦という手があるし、学費は私立の方が免除の手段がある大学が多いことを教えてくれた。それからもこまめに情報をくれたので、俺はスカラシップ入試制度を取っている私大に進学を決めた。条件さえ満たしていれば、かなり学費を免除された形で大学生活を送ることができる。しかも奨学金と違い、返金不要だ。
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