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第八章 人の数だけ気持ちがある

199 ブーディカは自殺しない ④

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 後日、どうして喧嘩を売るような真似をしてきたんだと訊ねたら、椿はブーディカを知らなかったら絶対調べるし、彼女に襲いかかった過酷な運命を無視する人間ではないと思ったと言われた。これで引くような人間と付き合う気はなかったとも。よくわからない試し行為をするな。

「ブーディカが死を選ばずに済む、戦わなくていい世界だったら、いいのに」
「まずは俺達でそれを作ればいいんじゃないの。人間の最小単位は二人だというし」

 社会人になって一年、あえて実家で過ごしたのは、貯金をするためだ。もう少ししたら、私は実家を出て、恋人と暮らし始める。



 最近気がついた。恋人はどことなく、新と似ている。
 眼鏡を掛けていて、ひょろっとしていて、少しだけ猫背。内向的で、少しシニカルだけど、心を許した人間のことは絶対に裏切らない。
 どうして心を許されたのか、わからないけれど。

 たぶん、お互いやり直しているのだ。
 私は母方の祖父母が大嫌いだし、フォローしてくれなかった日和見な両親もどこか信じ切れていない。新との関係はなんだかねじれてしまった。きっともう、新は私に心を開かないし、私も新に弱みを見せたくない。
 恋人は、血のつながった家族を、永遠に許さない。

 もし違う世界線なら、私と家族の関係も、恋人と家族の関係も、何のわだかまりもないものであったのかもしれないけれど。

 恋人と口論になることはしょっちゅうだ。けれども、決定的な断絶は起きないと確信している。口論が成立するからだ。
 私は論破されることを恐れない。意見を聞かれもせず、黙殺され、強制的に同化させられることを恐れる。
 私達が違う人間であるということは、救いだ。

 この世界線で、ブーディカは自殺しない。
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