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第八章 人の数だけ気持ちがある

190 神を愛したい者の回旋曲 ③

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「別れることがないとは言わない。俺が玲美に振られて、説得しても駄目なら、別れざるを得ないから。そしたら若葉とは多少気まずいかもしれないけど」
「気まずいというか……。若葉のことも失うことになるから」

 本気で意味がわからないという顔をされた。

「どうして? 関係ないだろう?」
「響と若葉は兄妹でしょう。血のつながりがあるし、仲もいい。どっちを選ぶかといったら、響でしょ」
「玲美、俺よくわかんないから、正直に言って。何がそんなに不安なの?」

 直球で訊ねられ、もういいや、という気持ちになった。

「大切なものを、これ以上失いたくないんだよう……」

 響と付き合わなければ、別れることはない。でも、もう付き合ってしまった。
 若葉に言わなければ、響と別れても若葉は失わない。そう思ったから、言いたくなかった。
 ぎゅうっと抱きしめられる。

「よくわかんないけど、心配しすぎ」
「言っても仕方のないことだし、言ったら面倒だと思われるのはさすがにわかる……」
「玲美の言うことに正直共感は全然できないけど、すごく不安だったことは理解した」
「共感は全然できないって、正直だな……」
「だって、俺と玲美、考え方違うし。でも玲美は違っても理解しようとはしてくれるだろ」

 だってって言われるとなんかむかつく。そう思いながらぎゅうっと抱きついた。

「俺のことは信じられなくても仕方ないって思えるけど」
「いいのかよ……」
「だって、俺のことだし。でも若葉はそんなことで大切な友達を捨てるような奴じゃない。だから若葉は失わない。若葉のことは信じてやってほしい」

 思わず響の顔を見ると、すごく嬉しそうな笑みを浮かべている。

「なんで、笑顔」

 信頼されてないって取られても、仕方ないと思ったのに。

「だって、玲美にとって俺は失いたくない大切な存在なんだなあって思ったら、嬉しくなってしまうだろ!」

 思わず吹き出してしまったら、またぎゅうっと抱きしめられた。
 響と考え方が違って、よかったかもしれない。
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