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第八章 人の数だけ気持ちがある

184 神が愛すべき者の前奏曲 ④

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 翌朝、目が覚めると北村さんは私の顔をじっと見つめていた。ああ、そうだ、昨日の夜、一緒に過ごしたんだった。

「玲美ちゃん」

 北村さんは私に微笑みかけると、そっとキスをして抱きしめてくれた。

「可愛い」
「……いいですよ。そこまでサービスしなくても……」
「サービス……?」
「昨日のことはいい思い出にしますから、気にしなくていいです」

 北村さんは抱擁を解き、私の顔をまじまじと見つめる。その後すっごくがっくりした感じに下を向いた。

「あの……。俺達、付き合ってるんじゃ、ないの?」
「え…………?」

 北村さんは更に落ち込んだ様子でベッドに伏せる。

「玲美ちゃん、モテるだろうけど、潔癖そうだから、彼氏にしか指一本ふれさせないと思ったし、させてくれたんだから、つまり俺は彼氏なんだと……」
「別に潔癖じゃないしモテませんよ。男子からは常にビビられて距離を置かれていましたし、今もそうです」

 どういう論法なんだ。少し呆れてしまう。
 しばらく北村さんはうつ伏せていて。ああ、気まずいな。どうして私は部屋に招いてしまったんだ。ラブホにしとけばサクサク帰れたのか。家にいるのに帰りたい。

「……確かに、きちんと言葉にしなかった俺も悪い」

 そうつぶやくと、北村さんは顔を上げ、私に向き直る。

「俺は! 玲美ちゃんと! 付き合いたいと思ったし! 彼女になってくれたと思ったから! したんだからね!」
「は、はい」
「ずっと好きだったし、もちろん今も好きだから! 付き合って!」
「は、はい」

 ああ、しまった。勢いでつい、「はい」と言ってしまった。私の返事を聞いて、北村さんはご機嫌な笑顔になる。

「やった! じゃあ、玲美って呼んでいい?」
「は、はい」
「俺のことも響って呼んで」
「ひ、響……」
「そう!」

 笑顔でぎゅっと抱きしめられ、勢いでそのままもう一度突入した。そこからが一応「恋人同士のお付き合い」なんだろう。お互い呼び捨てに変わったし、私も敬語が抜けた。北村兄妹から、なんだかよくわからないうちに懐かれている人生である。
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