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第八章 人の数だけ気持ちがある

182 神が愛すべき者の前奏曲 ②

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 その後は北村さんと一緒にごろんと横になって花火を見上げた。
 深い藍色の帳に絶え間なく色の光が放たれる。一幅の絵だ。昇っては消え、広がっては散り、また新たな光があらわれる。赤、青、黄色、緑に紫、水色やオレンジ。炎色反応だっけ。
 ずっと二人とも無言。でも気まずくは感じなかった。何も話さずとも場が持つのは、相手の人柄と相性による。これは北村さんの人柄のおかげだろう。のんびりしてるし。

 あまりにも心地がよく、最後の花火が消えた後も、私はしばらく横になっていた。ランタンの明かりが綺麗で、涼しい風が心地よかったし、山の緑の匂いも安心できた。

「玲美ちゃん」

 不意に声を掛けられ、北村さんと目が合う。次の瞬間、私は唇を奪われていた。それまで手を握られたことさえなかったから、完璧に想定外。思わず身体を起こすと、にっこり微笑まれ、私は訳がわからなくなってしまった。

「ずっと、キスしたかったんだ」
「え……」
「玲美ちゃん。今日は朝まで一緒に過ごさない?」

 まさかのド直球キタ。

 北村さんは美形で、いつもにこにこしていて、地味に眼光鋭いけど性格は穏やかだ。
 嫌ではない。冷静に考えて、彼よりいい男にそうそう出会えるとも思えない。
 処女を捨てたい訳ではないけど、後生大事に守っている訳でもなく。
 「恋人との甘い時間の模倣」には少し興味があった。本物じゃなくていい。持っているものは他者からうらやましがられるのに、心底欲しいものはどんなにもがいても手に入らない。私の人生はいつもそんな感じだ。

 こくりと頷くと、北村さんはとても嬉しそうに私を抱きしめ、軽いキスを何度も落とした。
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