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第七章 雨が降れば必ず土砂降り

173 雨の降る日は天気が悪い ⑥

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「ごめん、向井。僕はちょっと教材研究をしたい」
「……わかった」

 片岡くんが気に入って購入した数学の教科書をパラパラとめくる。どの単元も、概略が最初に提示され、詳細説明がなされる。わかりやすい。

 でも、現実はそんなに親切じゃない。「こんなことが起こります」、「ここが注意点です」、そんな風に情報がわかりやすく転がってはいない。むしろ重要な情報ほど、読みにくいフォントで書かれている文章のように、見落としてしまいがちだ。
 答がすぐ近くにあったとしても、わからないことはある。必死に読み取ろうともがいても、緑の紙に赤い文字で書かれていたら、どうしても読むことができない人は存在するのだ。

 僕は、必死にもがいたか? 現状は、僕にはどうにもできないのか?
 現実は数学のように明確な答は出ない。それでもさすがにわかる。今の僕は、完全に努力不足だと。

 そんなことを考えていると、店長がようやく帰ってきた。あわてて数学の教科書を元の場所に戻す。
 店長からは今日の対応を褒められ、通常のバイト料とは別に追加報酬を出すと告げられた。僕は何もしていないのに。

 いつも通りピーターラビット号で向井を家まで送る。珍しく向井は無言で、聞こえるのは雨の音だけ。ざああ、ざああ。向井の家の前に車を停める。ありがとうと言って、そそくさと車から降りようとする向井に、僕は声を掛けた。

「向井。たくさん気遣ってくれたのに、本当にごめん。ありがとう」

 どうすればいいのか、現実では明確な答なんか見えない。でも、今日のうちに向井に謝らなければならないとは思った。「自分は嫌な奴だ」という言葉は、反省に見せかけた単なるごまかしだ。このまま今日を終えるのは、絶対によくない。それだけはわかった。
 向井は少し戸惑っている様子だったけど、笑顔で頷いてくれた。
 よかった。僕は間違えなかった。
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