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第七章 雨が降れば必ず土砂降り

170 雨の降る日は天気が悪い ③

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 三人でお茶を飲みながら、少し雑談をする。
 ご両親は帰宅が遅いことが多いそう。食事は同居しているおばあさんが作ってくれている。ただ、少し脚が悪いので、この雨の中、迎えに来てもらうことはできないと思う、とのことだった。

「片岡くん、おばあさんにご連絡した?」
「いえ。迎えには来てもらえないと思って、してないです」
「この雨だし、きっと心配しているよ」

 向井の言葉を聞いて、確かにそうだなと思った。知らせておいた方がいい。
 片岡くんは向井の助言に素直に従い、おばあさんに連絡を取った。

「……うん。……心配かけてごめんね。僕は大丈夫。……うん。父さんと母さんに? ありがとう」

 片岡くんは電話を切る。

「ありがとうございます。祖母はすごく心配していたので、連絡してよかったです。祖母からも父母に連絡するとのことでした」

 片岡くんは「私的な電話はすぐには取らない」と言っていたけれど、ご両親もおばあさんからの電話なら取るかもしれない。よほどのことだと判断して。
 すぐに片岡くんのスマホに連絡が入る。片岡くんは発信者の名前を見て、少しためらっている様子だったが、電話をとった。

「……もしもし。……はい。……はい。……え、兄さんが? ……はい。お願いします……」

 スマホを切ると、片岡くんは、ふうとため息を吐いた。

「うちは、兄が迎えに来てくれます……。二十分以内に着くという話でした」
「あ……。そうなんだ……」

 片岡くんの言葉に、向井の声音が少し困っているように感じられた。珍しい。向井はへらへらしているように見えて、普段は動揺を表に出さない。
 十五分ほどして、向井が困っていた理由がわかった。
 片岡くんを迎えに来たのが、若葉ちゃんの元彼だったからである。

「……こんばんは」
「片岡! すごい雨なのに、迎えに来てくれてありがとう!」

 向井が妙に明るい声で言うのが、なんだか白々しい。

「え? 兄と先生方、知り合いだったんですか?」
「うん。片岡とは教職の授業でいつも一緒なんだ」

 向井がそう言うと、片岡くんはなるほどと納得した様子で頷いた。

「ほら、帰るぞ。ご挨拶して」
「あ……。先生方、今日もありがとうございました」

 片岡くんは頭を下げると、そのまま兄を追うように足早に出て行った。
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