167 / 352
第七章 雨が降れば必ず土砂降り
166 牧羊犬と牧畜犬と救助犬 ④
しおりを挟む
「煮え切らないな、ボーダーコリー」
ものすごく高価なプレゼントをもらっていたと気づけなかったこと。若葉ちゃんにこれだと思って選んだものが安価だったこと。自分の見る目のなさ。
「価値や真贋を見分けられるようになるには、本物にたくさんふれていないといけない。そういう話です」
「猫に小判」
「豚に真珠」
渋沢新によい鞄。同じような意味だと思うと、ちょっと凹む。
「あとは、自分がこれを受け取るに値する人物か」
「自分に対して否定的だね、ボーダーコリー。持っているうちにふさわしい人間になっていくものなんじゃないの? Clothes make the man.」
「馬子にも衣装」
いつのまにかことわざ大会になっている。響さんとの会話は、なんだか少し不思議な方向に向かいがちだ。軌道修正しないといけない。
「僕は、いろいろできないことや気づけないことが多いので、それが悔しくて」
「俺はそういうの、言うのやめた」
「やめた」
「診断が下りた後に、若葉に『色の細かい見分けができていいなあ』ってなんの気なしに言ったら、大泣きされたから」
泣いている幼い若葉ちゃんがありありと浮かんだ。全然変わってない。
「卑屈な気分だった訳でも、嫌味でも、八つ当たりでもなくて、純粋にそう思っただけだったんだけど。若葉は罪悪感を覚えたんだと思う。自分はできるから。どうしようもないことで、そんな風に思わせるのは、よくない」
確かに、自分を卑下することで、大切な人を傷つけることになったら嫌だ。でも、僕にできることはあまりにも少なく、無力で。
「もっと大人にならなきゃいけないのに」
大人、と響さんがぼんやりつぶやく。
「自分に何が向いているのか、何をしたらいいのか、全然わからないんです。具体的には就職をどうするかで迷っています」
向井のように志がある訳でも、具体的に行動している訳でもない。ぼんやりと、宙ぶらりんな場所にいる。大学三年、モラトリアムはもう終わりなのに。
ものすごく高価なプレゼントをもらっていたと気づけなかったこと。若葉ちゃんにこれだと思って選んだものが安価だったこと。自分の見る目のなさ。
「価値や真贋を見分けられるようになるには、本物にたくさんふれていないといけない。そういう話です」
「猫に小判」
「豚に真珠」
渋沢新によい鞄。同じような意味だと思うと、ちょっと凹む。
「あとは、自分がこれを受け取るに値する人物か」
「自分に対して否定的だね、ボーダーコリー。持っているうちにふさわしい人間になっていくものなんじゃないの? Clothes make the man.」
「馬子にも衣装」
いつのまにかことわざ大会になっている。響さんとの会話は、なんだか少し不思議な方向に向かいがちだ。軌道修正しないといけない。
「僕は、いろいろできないことや気づけないことが多いので、それが悔しくて」
「俺はそういうの、言うのやめた」
「やめた」
「診断が下りた後に、若葉に『色の細かい見分けができていいなあ』ってなんの気なしに言ったら、大泣きされたから」
泣いている幼い若葉ちゃんがありありと浮かんだ。全然変わってない。
「卑屈な気分だった訳でも、嫌味でも、八つ当たりでもなくて、純粋にそう思っただけだったんだけど。若葉は罪悪感を覚えたんだと思う。自分はできるから。どうしようもないことで、そんな風に思わせるのは、よくない」
確かに、自分を卑下することで、大切な人を傷つけることになったら嫌だ。でも、僕にできることはあまりにも少なく、無力で。
「もっと大人にならなきゃいけないのに」
大人、と響さんがぼんやりつぶやく。
「自分に何が向いているのか、何をしたらいいのか、全然わからないんです。具体的には就職をどうするかで迷っています」
向井のように志がある訳でも、具体的に行動している訳でもない。ぼんやりと、宙ぶらりんな場所にいる。大学三年、モラトリアムはもう終わりなのに。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
なし崩しの夜
春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。
さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。
彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。
信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。
つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる