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第六章 まだ願いごとが叶った頃

141 私と彼氏の初めての旅行 ①

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「新くんありがとう! 運転おつかれさま!」
「若葉ちゃんこそありがとう。おやつ、助かったよ。結局、お昼、きちんと食べられなくてごめんね」

 新くんが申し訳なさそうな顔をする。渋滞は新くんのせいじゃないのに。
 ラジオの交通情報と実際の進み具合から、そのまま直接旅館に向かっても着くのは十六時過ぎになるだろうと予測がついたので、夕飯のことを考えてお昼はおやつでしのぐことに二人で決めた。たくさん買っていってよかったし、新くんに食べさせてあげる夢が叶って嬉しかった。

 畳の上に荷物を置いて、洗面所に基礎化粧品を置きに行く。洗面所は、お手洗いとお風呂につながっていた。

「後で一緒に入ろ」
「う……うん」

 新くんに耳元で囁かれてどきどきする。
 この旅館に決めた最大の理由。ピーターラビット号があるから多少遠くてもいい、手頃な価格で内風呂を堪能できるところ。私の部屋のお風呂ではうまくいちゃいちゃできなかったから。

「新くん、ずっと運転してたから疲れてない?」
「ん? うーん、少し」
「じゃあ」

 新くんの手を引いて、畳の部屋に戻る。畳に脚を投げ出して座り、もう一度新くんに声を掛ける。

「膝枕、する?」
「……いいの?」
「もちろん」

 顔色が少し悪いのが気になっていて。ゆっくりしてほしいと思った。
 新くんは横たわり、私の腿にそっと頭を乗せる。

「夕飯まであと一時間ちょっとあるから、眠ってていいよ。時間になったら起こしてあげるから」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
「眼鏡も、預かっててあげるから」
「……ん」

 私がそっと眼鏡を外すと、新くんはそのままことっと眠ってしまった。
 ただでさえ運転は神経を使うのに、長時間だったから、きっとすごく疲れたよね。

 新くんの頭をそっとなでる。
 いつも新くんは私の髪をとても丁寧にほどいて、優しくなでてくれる。それがとても気持ちよくて。
 私の方がなでることって、あんまりなかったから、ちょっと嬉しい。愛おしさで胸がいっぱいになるものなんだなあ。

 玲美ちゃんの言う通り、ゲームなんかいらなかった。新くんの寝顔を見て、髪をなでて、それだけですごく幸せな時間。
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