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第四章 走る前に歩くことを学べ
105 新世界とダイバーシティ ④
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若葉ちゃんを後ろからそっと抱きしめて、耳元で囁く。
「僕は、そいつとは違うから」
若葉ちゃんはぴくりと震え、少し黙っていたけれど。
「ん……。あらたくんとは……たのしいし、きもちいし、すごくすき」
そう言ってくれてほっとする。
「わかれたあと、かんがえたの。もとかれは、わたしにきょぜつされて、かなしかったのかなあって」
「え……?」
「あらたくんとしてるとき……とってもあいされてるってかんじる。するの、すごくだいじだってよくわかったし、ないともうやだよ」
「うん。してる時すごく愛情込めてるし、僕にとってもセックスはすごく大事だよ」
「もとかれも、そう、ひっしにうったえてたのに、わたしはしろうとしないで、きょぜつしたのかもしれない」
若葉ちゃんはもぞもぞとこちらを向いた。
「あらたくんのこと、すごくたいせつだから、うけいれたいし、わたしもあいしてるって、からだでつたえたかったの」
若葉ちゃんは僕にキスをすると、ことんと眠ってしまった。ほんとに電池切れた。
フェラをされるたびに愛されてるなあと感じていたのは正しくて。でも、若葉ちゃんの思考回路は、僕の想像より、もう少し複雑に入り組んでいた。
一方的に愛されることを、彼女は望んでいない。僕らの関係を対等だと思っている。
若葉ちゃんの、男に媚びる訳でも、攻撃的でもない、自由なところがいいと思っていた。けれど、若葉ちゃんは僕の知らないところで彼女なりに戦っていて。
そして僕は、自分が他者を安易にカテゴライズし、偏見で評価を下していたことに、気づいていなくて。己の視野の狭さと浅慮を恥じた。
ふと、向井の言葉を思い出す。
『どちらかが一方的に面倒をみるのは、あんまり健康な関係じゃないというか。対等じゃないし、支配につながりやすい気がする』
僕は自分が一方的に若葉ちゃんを助ける側だと思っていた節があるけれど、それはおこがましかった。お互い助け合えばいいし、愛情を与え合えばいい。
現に、僕は、若葉ちゃんの存在に、とても助けられている。
翌朝、若葉ちゃんは肝心な話を全部忘れていた。若葉ちゃんは嘘を吐けないから、本当に覚えていないんだと思う。そもそも若葉ちゃんは元彼の話をしないし、僕の昔の彼女の話も訊ねない。潔く今を生きているのだ。
大事なことは、僕が覚えているから、それでいい。
「明日、帰省するのに、見送りに行けなくてごめんね」
「ううん! それより、バイトがんばってね! 私も実家で勉強がんばってくる!」
一か月後に再び会うことを約束して、僕らは笑顔で別れた。
「僕は、そいつとは違うから」
若葉ちゃんはぴくりと震え、少し黙っていたけれど。
「ん……。あらたくんとは……たのしいし、きもちいし、すごくすき」
そう言ってくれてほっとする。
「わかれたあと、かんがえたの。もとかれは、わたしにきょぜつされて、かなしかったのかなあって」
「え……?」
「あらたくんとしてるとき……とってもあいされてるってかんじる。するの、すごくだいじだってよくわかったし、ないともうやだよ」
「うん。してる時すごく愛情込めてるし、僕にとってもセックスはすごく大事だよ」
「もとかれも、そう、ひっしにうったえてたのに、わたしはしろうとしないで、きょぜつしたのかもしれない」
若葉ちゃんはもぞもぞとこちらを向いた。
「あらたくんのこと、すごくたいせつだから、うけいれたいし、わたしもあいしてるって、からだでつたえたかったの」
若葉ちゃんは僕にキスをすると、ことんと眠ってしまった。ほんとに電池切れた。
フェラをされるたびに愛されてるなあと感じていたのは正しくて。でも、若葉ちゃんの思考回路は、僕の想像より、もう少し複雑に入り組んでいた。
一方的に愛されることを、彼女は望んでいない。僕らの関係を対等だと思っている。
若葉ちゃんの、男に媚びる訳でも、攻撃的でもない、自由なところがいいと思っていた。けれど、若葉ちゃんは僕の知らないところで彼女なりに戦っていて。
そして僕は、自分が他者を安易にカテゴライズし、偏見で評価を下していたことに、気づいていなくて。己の視野の狭さと浅慮を恥じた。
ふと、向井の言葉を思い出す。
『どちらかが一方的に面倒をみるのは、あんまり健康な関係じゃないというか。対等じゃないし、支配につながりやすい気がする』
僕は自分が一方的に若葉ちゃんを助ける側だと思っていた節があるけれど、それはおこがましかった。お互い助け合えばいいし、愛情を与え合えばいい。
現に、僕は、若葉ちゃんの存在に、とても助けられている。
翌朝、若葉ちゃんは肝心な話を全部忘れていた。若葉ちゃんは嘘を吐けないから、本当に覚えていないんだと思う。そもそも若葉ちゃんは元彼の話をしないし、僕の昔の彼女の話も訊ねない。潔く今を生きているのだ。
大事なことは、僕が覚えているから、それでいい。
「明日、帰省するのに、見送りに行けなくてごめんね」
「ううん! それより、バイトがんばってね! 私も実家で勉強がんばってくる!」
一か月後に再び会うことを約束して、僕らは笑顔で別れた。
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