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第四章 走る前に歩くことを学べ

088 私の彼氏とバレンタイン ②

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 新くんのバイトが佳境だから、バレンタインは十三日の夜に泊まりに来てもらって、当日は外に食べに出かけ、早めに解散することになった。夕飯はバイト先でお弁当を食べるということだったから、私はチョコレートケーキだけ用意することにした。

 ひさしぶりに新くんと会える。今か今かと待っていると、チャイムの音がした。

「はあい!」
「若葉ちゃん。ひさしぶり」

 新くんは見るからにくたびれていたので、まずお風呂に入ってもらうことにした。リラックスしてほしい。
 食べる準備を整え終えた頃、ちょうどお風呂上がりの新くんがやってきたので、嬉しくなって効果音を口にする。

「じゃーん!」
「わー、すごい!」

 新くんは満面の笑みで拍手してくれる。やったあ!

「ザッハトルテ! 作ったの!」

 クリスマスはフランスのブッシュ・ド・ノエルだったから、今回はドイツのザッハトルテにしてみた。いろんな国のお菓子を、新くんと一緒に楽しみたいなと思って。
 グラスにワインを注ぎ、新くんに渡す。

「はい、どうぞ」
「ありがとう。チョコレートケーキとワインって、意外な組み合わせ」
「ザッハトルテ、赤ワインが合うって聞いたの! それに、新くんとお酒飲んでみたかったし」
「まだ一緒にお酒飲んだことなかったね」

 笑顔で乾杯してワインを飲んでみる。甘くておいしいなと思っている間に、新くんはザッハトルテにフォークを入れ、口へ運んだ。

「……おいしい。これ、間にジャムが入ってるんだね」
「そうなの! あんずジャム!」

 新くんはいつも、きちんと味わってから感想を言ってくれる。お世辞じゃないんだなと思えて、とても嬉しい。

「チョコレートケーキにも、いろいろあるんだなあ」

 新くんがしみじみと噛みしめるように言ってくれるので、嬉しくなって私も食べる。うん、上出来! 新くんに食べてもらうんだと思うと、いつもより手を掛けて丁寧に作りたくなるからか、失敗しないんだよね。上手く作らなきゃみたいなプレッシャーではないから、とても楽しい。
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