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第四章 走る前に歩くことを学べ

087 私の彼氏とバレンタイン ①

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「では、新学期までお元気で。今後はメールでご連絡くださいね」
「こちらこそありがとうございました! これからもよろしくお願いします!」

 春休みに入ってから、三浦先生に直接和訳と草稿を見てもらっていたけれど、ひとまず今日で終わり。先生はおひとよしなので、お願いしたら入試の合間を縫ってご指導してくださったけれど、いよいよお忙しそうだし、私も実家に帰って集中的に勉強しようと思う。

「先生、少し早いですけど、お礼も兼ねて、どうぞ!」

 チョコレートの詰め合わせを鞄から取り出し、お渡しする。義理チョコだと一目でわかるように、ファミリーパックのものを組み合わせて、透明のセロファン袋に入れた。

「ありがとうございます。後で大事にいただきますね」

 先生は笑顔で受け取ってくださる。仕立てのよいスーツに優雅な立ち居振る舞い。いつ見ても、紳士だなあ。

 私のゼミ選択はとても安易で。一年のゼミがたまたま三浦先生に振り分けられて、とても丁寧に面倒を見てくださったし、穏やかで優しいお人柄に惹かれたので、専門も三浦ゼミに入りたいと思ったのだ。

 ゼミ選択の説明会で、私は「三浦先生のゼミに入りたいのですが、何を研究すればいいのかわからなくて困っています」とお訊ねした。今考えると、かなり失礼な気がする。
 先生は「西洋史のフィールドに属するものであれば、どんなテーマを選択しても構わないです」と笑顔でおっしゃったけれど、それはそれで範囲が広すぎて困ってしまった。

 私のとまどいを察してくださったのだろう。先生は「北村さんはとてもおしゃれですから、西洋服飾史からテーマを絞っていくのはどうでしょう?」とおすすめしてくださった。
 まさか、自分の好きなものが「研究」になるとは思ってもみなくて。
 その後も先生は、何もわかっていない私にも懇切丁寧にご指導してくださって、本当にありがたいなと思う。

 そんな感じだから、三浦ゼミの卒論テーマはかなり自由だし、バラエティに富んでいる。ゼミ生はやりやすいけれど、先生の教養が幅広く深いからなんとかなっているんだなあと私は思っていて。自由というのは、それを支えてくれる人がいるから成立するものなのだなあ、と実感する。
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