上 下
84 / 352
第四章 走る前に歩くことを学べ

083 雨だれはショパンの音色 ②

しおりを挟む
 春休みで利用する学生が少ないからか、学食のメニューはいつもより少な目。迷った末、私は鯖の味噌煮定食にした。フィッシュボーンにしてる日は、ついお魚を選んでしまう。玲美ちゃんはカツ丼。
 席に戻って、いただきますと言ったところで、BGMが流行りのラブソングに変わった。「君を愛してる」、そんな歌詞が流れて、つい、思い出してしまう。

『若葉、愛してるよ』

 後期試験が終わった翌日、新くんは情熱的なまなざしを私に向け、そう言ってくれた。そしてぎゅっと抱きしめてくれて。
 ああ、もう、何度、反芻しただろう。思い出すたびに、胸がときめく。
 新くんからは、今までも、とっても大切にされているなあって感じてた。でも、言葉にしてもらえると、すごくすごく嬉しい。

「若葉、お箸落ちそう」

 玲美ちゃんの声にはっとする。しまった! 今日のニットはサックスブルーで、スカートは淡いベージュだから、どっちにしろお味噌がついたら悲惨だ。

「ご、ごめん。ありがと」
「急に赤くなったり、きゃあきゃあ言いながら手をぱたぱたしたり、見てる方は楽しいからいいけど」

 玲美ちゃんは笑顔でそう言ってくれるけど、さすがに恥ずかしい。
 私がたまに意識を飛ばしてしまっても、玲美ちゃんは怒らずに付き合ってくれるし、時にはそっと手を差し伸べてくれる。はっきりものを言うから誤解されることもあるけど、私は玲美ちゃんを大らかな人だと思ってる。許容範囲が広いもの。

「渋沢くんのこと、考えてたんでしょ」
「わ、わかる?」
「わかる。めちゃくちゃ幸せそうだから」
「うん……。とっても嬉しいことがあって……もう何度も思い出してる……」
「ごちそうさま」

 玲美ちゃんはやっぱりにこにこ笑ってくれる。元彼の時とは違って、新くんとのことは、すごく応援されている気がする。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私の完璧な彼氏さん

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:521

【完結】【R18】つべこべ言わずに僕に惚れろよ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:214

【R18】取り違えと運命の人

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:307

赤い髪の騎士と黒い魔法使い

BL / 連載中 24h.ポイント:92pt お気に入り:223

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:647pt お気に入り:3,919

女子大生家庭教師・秘密の成功報酬

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:21

装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:710pt お気に入り:29,975

処理中です...