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第三章 カバーで本を判断するな

078 僕と彼女と装備と経験値 ③

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 若葉ちゃんの実家の最寄駅を待ち合わせ場所に選んだのは、一番都合がよいと思ったからだ。

 僕の実家と若葉ちゃんの実家を結ぶ直通の公共交通機関は電車だけ。バスは数本乗り換えの上、正月ダイヤで夜遅くは走っていなかった。タクシーも考えなくはなかったけど、所要時間と料金を現実的に考えて電車、という結論だった。
 僕の実家で誕生祝いが終わるのは、例年二十二時過ぎ。正月だから遅く始まり遅く終わるのだ。終了後一番早く乗れる電車が、若葉ちゃんの実家の最寄駅に着くのは、二十二時五十分。

 二十三時は確かに遅い。でも若葉ちゃんの実家から駅は五分程度なので、ぎりぎり大丈夫かと思った。
 もし駅の近くにファミレスがあれば入ってもらったと思う。安全が確保できるし、ゆっくりできるから。でも、若葉ちゃんの最寄駅はそんなに大きくなく、近辺にある飲食店も個人経営のところばかりだった。元々二十四時間営業じゃない上、正月で休み。

 姉が無断で抜け出して親と揉めてるのを何度も見たから、ご家族の了解を得るのは大事だと思った。でも、外出する時間については、想定できていなかった。姉が基準になっていたのと、深夜に彼女と会うことなんて高校時代はなかったから。
 そしてなにより、僕はその時間から外出しても許されるし、そこまで怖い目にあったこともないから。自分が男だからこそ、不便を感じていなかった部分に気づかされる。

「当日、どう行動したか、教えてくれる?」

 僕が問うと、若葉ちゃんはつっかえつっかえ教えてくれた。

 実家を出たのは十八時。プレゼントを駅のコインロッカーに入れ、電車で繁華街に出た。繁華街なら正月でも営業してるお店が多く、時間を潰せるから。
 繁華街で二十時近くまで粘って、一番早く来た普通電車で最寄駅の一つ手前の駅で降りた。駅のすぐ横にファミレスがあるから。
 ファミレスで夕飯を食べて、しばらくぼんやりして、電車で最寄駅に戻った。駅に着いたのは二十二時三十分。早すぎるけど、次の電車だと、着くのが二十三時三十分だったから。
 そして、なるべく改札近くのベンチで待ったのだそう。もし何か危険が迫っても駅員さんに助けを呼びやすいように。

 僕に連絡はできなかったのだろう。実家で祝われている最中だから。
 若葉ちゃんの負担がないように、そう考えて提案したつもりだったけど、むしろ若葉ちゃんに大きな負担をかけていて。僕は自分の浅慮を恥じた。
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