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第三章 カバーで本を判断するな

065 新たな友達とサーロイン ④

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 そこまで話をしたところで、ステーキが運ばれてきた。

「俺、小さい頃、サーロインステーキって憧れで、大人になったら絶対に自分で食べに行くんだ! って思ってた」
「ああ、僕も」
「でも、いざ、自分で頼めるようになっても、もう少し金出せばもっと高級で確実に旨いものが食えるから、存外頼まないんだよな」
「確かに」
「だから、渋沢の選択、実はちょっと嬉しかった」

 ステーキにナイフを入れ、全部切ってしまう。都度切るのが正しいんだろうけど、ファミレスだし、面倒な作業は先に済ませて食べることに集中したい。
 口に入れると、ジュワッと肉汁が広がる。100%肉。こういう本能に訴えてくるものをひさしぶりに食べた気がする。

「おいしい」
「旨い。憧れのサーロインステーキはこんな味だったのか」
「僕はなかなかいい選択をした」

 向井がサーロインステーキをおいしそうに食べながらゲラゲラ笑うので、思わず訊ねる。

「そんなに笑いどころ、あった?」
「いや、渋沢を選んだ俺の判断は間違ってなかった」
「え?」

 意味がわからない。選んだ? 僕を?

「俺、なるべく自分と違うタイプの人間と一緒にいたいんだ。似たタイプや同じことやってる人間とばかり過ごしてると、自分の経験や身の回りの事例だけで判断しがちだし、視野が狭くなるからよくないと思って。いろんな人がいる訳だし」
「なるほどねえ」
「渋沢はなんだかつかみどころがなくて。ものすごく美形でもおしゃれな訳でもないのにモテてたし、気づいたらぱったりそういうのなくなってたし。敵は作らないけど、すごく仲がいい友達がいるようでもなかったし。全然読めない。でも、何も考えていない訳ではなさそうで。口には出さない、脳内で思い描いているものが何かが気になって、興味深かった」

 なんだろう、このむずがゆさは。と考えているうちに思い至った。

「なんか、僕、今、向井に口説かれてる気分……」
「俺もなんか口説いてるような気分になってきてるけど、恋愛対象は女子だし、そもそも恋人がいる人間に手は出さないから安心しろ」
「それは誠実でよい」
「俺がモテないの、マジ、世界七不思議だよな」
「ずいぶん大きく出たな」

 人間関係は広く浅く。スマホの連絡先登録はそこそこの件数あるものの、本当の友達は少ない僕に、新たな友達ができた日。
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