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第二章 真実はプディングの中に

057 土屋玲美の解される正月 ①

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 元日、シフトに入れる人間が一人もいない、だと?
 そう聞いて、うっかり受けてしまった私は、結構なおひとよしだと思う。店長の泣きそうな顔を見てたら、助けなきゃなあと思ってしまった。完璧にダメンズ養成思考である。

 ゆっくりお風呂に浸かって、スウェットに着替えてこたつに入り、正月のバラエティを見ている。こういうぼんやりしている時間が私には必要。普段は考えすぎてしまう。

「もうちょっとだけのんびりして、寝よ」

 ゆっくり眠って、明日こそ実家に帰ろう。そう思った瞬間。
 ガチャリと音がした。玄関のドアノブがカチャカチャいって、人が入ってくる。

「だ、誰?」
「誰って、俺しかいないでしょ」

 部屋に入ってきた奴はそう言い、私をにこにこ見下ろしている。無駄に威圧感のあるガタイのいい幻覚だな。

「一番ありえない」
「他にもいるの? 合鍵持ってる人間」
「いないけど……」

 電話で「年末年始は?」と訊ねたら、「実家に帰る」と即答したから、ハイソーデスカで終わらせたのに。

「何しに来た」
「んー? バイトで疲れたドレミちゃんをマッサージしに」
「ドレミ言うな」

 こいつは私の機嫌が悪いと気づくと「ドレミちゃん」と呼ぶ。
 土屋つちや玲美れみだから玲美レミ

「可愛くて気に入ってるんだけどな」
「私は音感がない」

 奴はくすくす笑って、私の肩に手を置く。

「ちょ……」
「うっわ、固っ! ごりごりしてる」
「小学生の頃から肩こりあるし」
「それは念入りに揉み解さないと」

 マッサージ、上手い。意外な特技だ。

「頭も固いなあー」
「悪かったな」

 私が即答すると、奴はくすくす笑う。

「比喩じゃないよ。頭皮、固くなってる。考えすぎ」

 考えずに生きられるなら、そうでありたかった。

「ドレミちゃんのくるくるした髪、可愛い」

 奴は指で弄ぶように私の髪を梳く。元々癖毛でまとまりが悪いので諦めてパーマをかけ、伸ばすと扱いづらいのでボブ。諦念の結晶のような髪をほめられてもピンとこない。若葉みたいにサラサラでやわらかい長い髪がよかった。
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