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第二章 真実はプディングの中に
048 僕の彼女と楽しむ誕生日 ④
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近くでタクシーを拾い、ラブホへ向かった。大した距離ではないけれど、部屋がなくなったらどうしようもないので、一刻も早くチェックインしたくて。
ラブホ街に着き、狙っていたラブホに運よく空室があったのでほっとする。
部屋に入って、まず、音楽を切る。このよくわからないムード音楽、集中できない。そして、事後すぐに入浴できるよう、湯船にお湯を張り始める。実家で数日過ごしたストレスからか、正直、いつもよりヤリたい。
「ジャケット、掛ける?」
「ううん。まだいい」
「まだ?」
「早くお祝いしたいから。もうすぐ一月一日、終わっちゃう」
若葉ちゃん、タクシー乗ってる時からなんだかそわそわして見えたけど、気のせいじゃなかった。安心させてあげなければ。
「僕の誕生日は一月一日だけど、生まれたのはギリギリで二十三時五十九分なんだ」
「えっ、そうなの?」
「そう。だから、まだ誕生日来てない」
若葉ちゃんが部屋をきょろきょろ見回す。君は腕時計をしているし、こういうところに掛け時計はないよ、そう思いながらスマホを見せる。羊とボーダーコリーがたわむれる、のどかな待ち受け画面。
「ほんとだ……!」
ぱああと音が聞こえそうなくらい満面の笑みを浮かべた若葉ちゃんが、無邪気で可愛い。
「誕生日、若葉ちゃんと一緒に迎えたくて」
「うん! 一緒にお祝いするね!」
若葉ちゃんの笑顔が、もう、お祝い。むしろ、君がいてくれることだけで、充分お祝い。心底そう思う。
「まずはこれ! はい!」
若葉ちゃんは小さい紙袋を僕に渡してくれた。
「ありがとう。何?」
「お年賀かな? 今年もよろしくと思って」
紙袋を開き、中をあらためると、フードパックに詰められたロールケーキが入っていた。包丁を使わなくていいように、切ったものがラップで包んである。
「ほら、デコレーションケーキだと、運んでるうちに箱にクリームついたりするし、食べるのも大変かなあと思って。ロールケーキならどこでも気軽に食べられるから」
「手作りのお菓子なんて、もらったことない。嬉しい」
「私、お菓子作り結構得意なんだ! よかったらまたいろいろ作るね!」
「うん、ぜひ。ブッシュ・ド・ノエルもクリスマスプディングも、すごくおいしかった」
僕がそう言うと、若葉ちゃんは可愛らしくえへへと笑った。
「クリーム溶けちゃうし、食べて! 食べて!」
「若葉ちゃん」
「なあに?」
「食べさせて」
「え?」
若葉ちゃんが頬を赤らめて固まる。
「ほら、誕生日だし。お願い」
「う、うう……」
若葉ちゃんはロボットみたいなすごくぎこちない動きで、ロールケーキを一つ取った。ラップを半分くらい剥がし、おそるおそる僕の口に運んでくれるので噛みつく。がぶり。
「……すごくおいしい!」
「よかった!」
若葉ちゃんの作るお菓子は、少し甘さ控えめで、優しい味がする。ケーキの部分はきめ細やかでしっとりしていて、口の中でおいしさがほどけていくように広がる。クリームは市販のものよりやわらかめで、新鮮な牛乳の風味を感じる。きちんと素材のよさが活かされた感じ。しつこくなくて好きだ。
このケーキ、ただただ僕を喜ばせるためだけに、作ってくれたんだ。年末年始のあわただしい台所で、とても丁寧に。若葉ちゃんは「自分は気遣いが足りない」とよく言うけど、すごく僕を気遣ってくれていると思う。
ラブホ街に着き、狙っていたラブホに運よく空室があったのでほっとする。
部屋に入って、まず、音楽を切る。このよくわからないムード音楽、集中できない。そして、事後すぐに入浴できるよう、湯船にお湯を張り始める。実家で数日過ごしたストレスからか、正直、いつもよりヤリたい。
「ジャケット、掛ける?」
「ううん。まだいい」
「まだ?」
「早くお祝いしたいから。もうすぐ一月一日、終わっちゃう」
若葉ちゃん、タクシー乗ってる時からなんだかそわそわして見えたけど、気のせいじゃなかった。安心させてあげなければ。
「僕の誕生日は一月一日だけど、生まれたのはギリギリで二十三時五十九分なんだ」
「えっ、そうなの?」
「そう。だから、まだ誕生日来てない」
若葉ちゃんが部屋をきょろきょろ見回す。君は腕時計をしているし、こういうところに掛け時計はないよ、そう思いながらスマホを見せる。羊とボーダーコリーがたわむれる、のどかな待ち受け画面。
「ほんとだ……!」
ぱああと音が聞こえそうなくらい満面の笑みを浮かべた若葉ちゃんが、無邪気で可愛い。
「誕生日、若葉ちゃんと一緒に迎えたくて」
「うん! 一緒にお祝いするね!」
若葉ちゃんの笑顔が、もう、お祝い。むしろ、君がいてくれることだけで、充分お祝い。心底そう思う。
「まずはこれ! はい!」
若葉ちゃんは小さい紙袋を僕に渡してくれた。
「ありがとう。何?」
「お年賀かな? 今年もよろしくと思って」
紙袋を開き、中をあらためると、フードパックに詰められたロールケーキが入っていた。包丁を使わなくていいように、切ったものがラップで包んである。
「ほら、デコレーションケーキだと、運んでるうちに箱にクリームついたりするし、食べるのも大変かなあと思って。ロールケーキならどこでも気軽に食べられるから」
「手作りのお菓子なんて、もらったことない。嬉しい」
「私、お菓子作り結構得意なんだ! よかったらまたいろいろ作るね!」
「うん、ぜひ。ブッシュ・ド・ノエルもクリスマスプディングも、すごくおいしかった」
僕がそう言うと、若葉ちゃんは可愛らしくえへへと笑った。
「クリーム溶けちゃうし、食べて! 食べて!」
「若葉ちゃん」
「なあに?」
「食べさせて」
「え?」
若葉ちゃんが頬を赤らめて固まる。
「ほら、誕生日だし。お願い」
「う、うう……」
若葉ちゃんはロボットみたいなすごくぎこちない動きで、ロールケーキを一つ取った。ラップを半分くらい剥がし、おそるおそる僕の口に運んでくれるので噛みつく。がぶり。
「……すごくおいしい!」
「よかった!」
若葉ちゃんの作るお菓子は、少し甘さ控えめで、優しい味がする。ケーキの部分はきめ細やかでしっとりしていて、口の中でおいしさがほどけていくように広がる。クリームは市販のものよりやわらかめで、新鮮な牛乳の風味を感じる。きちんと素材のよさが活かされた感じ。しつこくなくて好きだ。
このケーキ、ただただ僕を喜ばせるためだけに、作ってくれたんだ。年末年始のあわただしい台所で、とても丁寧に。若葉ちゃんは「自分は気遣いが足りない」とよく言うけど、すごく僕を気遣ってくれていると思う。
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