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第一章 人の好みは説明できない

028 僕の彼女は素直で可愛い ②

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 僕は美しいものが好きだ。でも芸術の才能には恵まれなかった。絵は描けないし、歌も上手くない。アーティストにはなれない。自ら作りだせないがゆえに、余計美しさに焦がれているところはある。

 僕にとって女子は、美しい存在ではなかった。姉を見ていると女子に対する幻想は粉々に破壊され、欠片も残らない。

 小さい頃から僕は三つ違いの姉のおもちゃにされていた。
 姉というのは恐ろしいいきものである。「女の子には優しくしないと」と「年長者は敬わないと」のコンボで殴り掛かってくる。要は、絶対服従。恐怖政治。
 小さい頃は僕が一人ゲームで遊んでいると必ず取り上げられていたし、本を読んでいるとしつこく絡んできたし、ある程度年齢が上になると、夜中にコンビニ行ってアイス買ってこいとか、僕をパシリに使うことに何の躊躇もなかった。

 何のきまぐれか、姉は大学に入って初めてのバイト代で眼鏡と洋服一揃えを買ってくれた。曰く、「私、自分の弟がだっさいの、ずっと許せなかったのよね」。それは申し訳ありませんでした。

 姉は世間で美人と呼ばれるタイプだ。身内だから、というか、これまでの歴史から、僕はまるでそういう風に見ることができないけれど。そして、美意識が高いのだと思う。

「人は外見で判断する。でも男に媚びるなんてまっぴら。化粧も服も武装。私はなりたい自分になるために戦う」

 当時、僕の世界は、学校と家が全てだった。だからずっと、なるほどそうなんだろうと信じ込んでいた。

 姉が選んでくれた眼鏡は、スクエア型の瑠璃紺のメタルフレーム。少し珍しい色のフレームで、掛けると随分クールな印象になった。
 一揃え買ってくれた服も、かっちりとした綺麗目のもの。
 高校は制服だから服は休日にしか使えない。でも眼鏡は毎日掛けるし、もはや顔の一部だ。大きく印象を変える。

 そこまで不細工ではなく、背もそこそこあり、成績も悪くない。そんな僕には需要があった、ということなんだと思う。パーフェクトな男よりも「これくらいならいけるかな」とみなされるからだと思う。悪く言えば「御しやすそう」なんだろう。

 クールな印象の僕に近づいてきた女子達は、今考えると、確実に面倒なタイプだった。
 外見はみんな整っている。その分相手に求めるものも多く、気持ちを察してほしがる。下手に姉の英才教育を受けてしまったため、僕はその類の察しがよかった。

 僕のことを温和と表現するのは完全に誤りだ。単に争うのが面倒なだけで、全く温かくない。思い入れのあることが少ないから、大抵は言われた通りにする。決めてくれる方が楽なだけだ。
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