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第一章 人の好みは説明できない

027 僕の彼女は素直で可愛い ①

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 鮮やか。
 それが若葉ちゃんの第一印象だった。

 個別認識したのは、一年の四月の終わりくらい。
 ゼミこそ一緒だったけど、それまで印象は特になかった。もし、若葉ちゃんの顔写真を見せられてどう思うかを問われたら、一言、「美人」と答えただろう。若葉ちゃんの顔立ちは整っていて、一般的には美人に分類されるだろうと思うし、無難な回答だからだ。でも、それ以上は特に浮かばない。僕は女子を普段その程度しか認識していない。

 その日、僕は一限の授業開始前でぼんやりしていた。朝に弱い。

「今日は何?」
「今日はね! 昨日ニュースで見た菜の花畑が綺麗だったから、菜の花コーデ!」

 菜の花コーデ? 意味がわからなくて、思わず声の方向を見た。

 いちめんのなのはな
 山村暮鳥の詩が浮かぶ。

 黄色が飛び込んできて、一気に目が覚めた。
 白いブラウスに黄色いカーディガンを羽織り、ヒラヒラした若葉色のスカートを合わせた彼女を見た日。

 連休明けのゼミで、あの菜の花の子とはもう出会っていたのか、とびっくりした。初回に配られたプリントを見返し、「北村きたむら若葉わかば」と名前を確認する。プリントの裏に、自己紹介で聞いたことを全員分メモしておいたのだ。覚えられる自信がなかったから。案の定まるで覚えていない。

 後日、「ゼミがある日は先生と直接話すから、色味を抑えた比較的きちんと見える格好を心がけていた」と若葉ちゃん本人から聞き、印象に残らなかったことを納得した。淡い桜色のセーターに若葉色のスカートで桜餅コーデとか、ひっそり楽しんではいたらしいけど。



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山村暮鳥「風景 純銀もざいく」
https://www.aozora.gr.jp/cards/000136/files/52348_42039.html
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